出版社の幻冬舎と作家の津原泰水(つはら・やすみ)氏との騒動について考えてみよう。
 津原氏が幻冬舎から出版された「日本国紀」(百田尚樹著)を批判した。「日本国紀」は60万部を越す大ベストセラーである。
 幻冬舎は報復措置(?)として津原氏の本の文庫化を断った。津原氏がそのことをネットで告発したところ、幻冬舎・見城徹社長が津原氏の本の実売部数をネットでさらした。「売れない作家が何を言ってやがる」ってことか。

 まあ大人同士の喧嘩だね。出版業界での内輪もめ。

 私は津原泰水氏のことを今回の一件で初めて知った。幻想小説、怪奇・ホラー小説といった、まず私が読むことのないジャンルの方だからだが、文芸春秋・講談社・集英社をはじめ著名な出版社から本を出し、文庫化もされているから、売れない作家というわけでもないようだ。

 騒動の経緯はネットで検索してもらうとして、私の注目ポイントは出版社の役割ということ。
 「お前の本は売れねえんだよ」。
 とは言っていないが、実売部数をさらすというのはそういうことだろう。
 でもね、本を売るのが出版社の仕事じゃないの。
 書く人がいて、編集する人がいて、印刷する人がいて、売る人がいて、それで出版という世界が成り立っているわけ。もちろん関わる人すべてが売れることを願って仕事しているが、売ることに関して一番重い責任を持っているのが出版社であるから、それが「書いたやつが悪いんだよ」的なことを言ってはいけない。

 私はこれを内輪もめと捉えている。内輪もめは業界や会社が傾いて来たときに起こる。うまく行っているときは起らない。イケイケのときには出てこない。
 紙の本が売れなくなったと言われるようになって久しいが、今回のようなことが起きると、出版業界もいよいよ末期症状ではないかと心配になってくる。

 業界にしても会社にしても、そこに属する人、関わる人が役割を分担しながら、総合力で盛り上げるものだ。内部で批判し合う状態は、きわめて危険な状態であるということを覚えておこう。(念のために言っておくが、作家同士が言論で批判し合うのは別の話だ)