教育長! 盗撮防止の名案が見つかりましたよ。
 「なんだなんだ、どうすれば盗撮が防げるんだ」
 簡単ですよ。スマホの所有禁止ですよ。
 「いやあ、さすがにそれじゃ困るだろう。通勤でモバイルスイカ使ってる先生だっているわけだし」
 じゃあ、こうしましょう。朝出勤してきたら、放課後までスマホを預かりましょう。
 「なるほど、生徒と同じようにすればいいんですね」
 
 ただ問題なのは、GoPro(ゴープロ)とかOsmoPocket(オズモポケット)みたいなやつですね。
 「何ですか、それ?」
 動画撮影用の超小型カメラですよ。こういうのも禁止。あと、最近はスマートウォッチでも動画が撮れますからね。これも禁止。教室に持って行けるのはチョークだけ。
 「何だが、昔に戻ったみたいですね」
 そうですよ。だから、昔は盗撮なんかなかったじゃないですか。撮れるものを奪ってしまえばいいんですよ。

 「なるほど。原因を元から絶ってしまえばいいわけですね。とすれば、クルマ通勤禁止にしてしまえば交通事故や違反もなくなります。先生には電車通勤しか認めないようにしましょう」
 甘いですね。通勤通学ラッシュの時間帯に電車に乗せたらダメでしょう。痴漢の心配がありますよ。認められるのは徒歩通勤だけです。

 「さすがに時間かかり過ぎだし、疲れるでしょう」
 そこですよ。帰宅に2時間も3時間もかかったら、残業する先生はいなくなります。授業が終わったら、みんなさっさと帰りますよ。

 「そうか。働き方改革につながるわけですね。すばらしいアイデアだ。で、他に何か禁止することはありますか」
 修学旅行は夜の飲酒につながるから禁止ですね。あと、個人面談も止めましょう。相談に乗っているうちにお互い好意を持つケースが多いですからね。

 「盗撮が頻発した浜松市の教育委員会が教室や部活動にスマホを持って行くことを禁止したという話を耳にしましたが、そういうことなんですね」
 綱紀粛正とか口で言ってるだけじゃダメなんですよ。とにかく禁止、何でも禁止。これですべてが解決します。

 「でも、そこまで禁止、禁止と言わなくても良識をもって適切に行動している先生もたくさんいるんじゃないですか。と言うか、そういう先生がほとんどだと思いますが」
 どこまでも甘いですね。世間はそういうことでは納得しないんですよ。1000人中たった一人のことで残りの999人も同類とみなされて糾弾されるのが、この世界なんです。

 「何だか夢のない世界ですね」
 いや、だから、いろいろ言いましたけど要するにポーズですよ。禁止ポーズ。そこまで極端に振れちゃうと、スマホが悪いんじゃないとか、むしろ授業で活用すべきとか、そういう擁護論が出てくるものなんです。それを、反省してますとか、以後厳重に注意しますとか、自覚を促しますとか、訳の分からん言い訳をするもんだから一向に世間からの追及が止まないんですよ。
 「なるほど。浜松市は何とつまらない決定をしたものだと呆れていましたが、狙いはそこにあったんですね。私たちもみならいましょう」