半沢直樹。流行っているらしいね。ただ私はテレビドラマにはまったく興味がないので前作も今作も見ていない。

 原作者・池井戸潤は元三菱銀行の銀行員であったので、銀行及び金融界を舞台にした作品が多い。2011年、「下町ロケット」で直木賞を受賞するが、私が氏の作品を読んでいたのはそれ以前のことだ。
 「果つる底なき」
 「最終退行」 
 「株価暴落」
 「シャイロックの子供たち」
 「空飛ぶタイヤ」
 「オレたちバブル入行組」
 「オレたち花のバブル組」
 もっとあったような気がするが、思い出せるのはこんなところか。
 このうち、「オレたちバブル入行組」と「オレたち花のバブル組」が半沢直樹の原作にもなっている。
 まあ原作を読んでいるのだから、わざわざTVドラマや映画を見ることもあるまい。というか、自分の中にある作品イメージが崩れる。

 三菱銀行は現在の三菱UFG銀行である。
 三菱UFG銀行は何度かの合併を経て今日に至っているが、簡単にまとめるとこんな形だ。
 三菱UFG銀行=東京三菱(三菱銀行+東京銀行)+UFG(三和銀行+東海銀行)

 私は大学生の就活(当時はそんな言葉は流通していなかったが)の際、当時の三菱銀行を受けに行った。教員になるか、サラリーマンになるか。たぶん、六四か七三で教員に傾いていたと思うが、友達が一緒に行こうぜというので軽い気持ちで行ってみた。
 書類選考は通過。その後2回くらい面接らしきものがあり、次を通ればほぼ内定という段階でアウトになった。

 別に不服はなかったが、一応電話して理由を聞いてみた。今そんなことが出来るのかどうか知らないが、当時はできた。
 すると担当者はこう言った。
 「キミは上司がひとこと言ったら、二言三言言い返してくるようなタイプに見える。それが悪いとは言わないが、少なくとも当行にはなじまない。キミのような人材を求めている業界もあると思う。健闘を祈る」
 さすが銀行員。言うことにそつがない。
 が、それにしても大人ってすごいな。自分でも自身の生意気さ加減を薄々感じていたが、上手く繕ったつもりでもちゃんと見抜くんだ。世の中なめちゃいけない。
 でもまあ。これでスッキリと教員に舵を切れる。

 このことは年を取ってだんだん分かってきたことなのだが、たとえばの話、寿司屋に勤めたら、いきなり握らせろ、鰻屋に勤めたら早く焼かせろ、私はそういうタイプの人間なのだ。下積み嫌い、修業まっぴら。
 そういう点で、教員は合っていた。なにせ初日から授業、すぐさま担任だ。見習い期間が無いのは実に有り難い。上司と部下の関係が割と緩めなのも自分に向いている。

 ただ、基礎基本をちゃんとやろうとしない者は、すぐに壁にぶつかりそれを乗り越えられない。上手く行かないときはいったん原点に戻ってみれば、必ずそこに答えがあるはずなのだが、戻るべき原点がない。
 下積み嫌い、修業嫌いの性癖は若い時代に直しておくべきだった。私は何度も言うように、山登りで言えば下山中、飛行機で言えば着陸態勢なので今さらだが、まだ人生の持ち時間が豊富にある人は、「これって何の意味があるのよ」的な、単純極まりない行動の繰り返しを厭わないことだ。