人事異動のシーズンである。
 異動のご挨拶にみえる方もいる。電話やメールでの連絡もある。
 公立学校の先生の中には60歳定年を迎える方もいるが、再雇用で働く人が多く、これもまた異動の一種だ。

 私は、定年のはるか手前、40歳で公立高校教員を辞めた。
 それまでの経験などまったく役に立たない異業種に転職した。
 3割ぐらいの人は、別の世界でも頑張って欲しいと本気で言ってくれたが、残りの7割は心の中で私の挫折を期待していた。
 人間というのはそんなものだよ。
 それは当時から分かっていた。

 当時の読みが当たっていなかったこともある。
 40歳を区切りとしたのは、この年齢からなら、2、3回しくじってもやり直すだけの気力、体力が残っているだろうと考えたからだ。
 50歳とか、定年の60歳という区切りもあったが、その年齢からでは万一失敗した場合、巻き返しがきかないと思った。
 40歳から眺めた50歳、60歳はずいぶんと年寄りに見えたのだ。
 だが、これは違っていた。

 何度も失敗したのは予想通り、というか予想以上だった。
 予想外だったのは、気力、体力面の余力だ。
 若い頃想像した以上に残っていた。

 あんなにジジイに見えた50歳、60歳もいざ到達してみれば、どうってことなかった。
 なんだ、まだ行けるじゃないか。
 だったら、あと10年くらい先生やってて良かったかも。

 という話をすると、いや、あなたは早めに辞めて正解だったという声も聞こえてくる。
 体罰やパワハラやセクハラなんて言葉がない時代だから通用したんだ。
 そのまま残っていたら、間違いなく懲戒免職(クビ)になっただろう。
 なるほど、その指摘は正しいかもしれない。
 
 さて、新しい部署に異動したり、新しい仕事に就いた人に何か気の利いた一言をおくろうと思うが、適当な言葉が思いつかない。
 一つあるとすれば、人生の答え合わせについてだ。
 今頃になってようやく分かったことだが、こいつがなかなか難しい。
 ある時点で正解と思えたものが、少し時が経つと不正解と思えたり、逆に大失敗と見えたことが、むしろ成功に見えてきたりするのだ。
 
 気の進まない異動や不本意な転職、再就職で気分が上がらない人へ。
 今は答えわせの時ではないよ。