通信制、「生徒80人に教員一人」といったニュースをご覧になった方も多いだろう。
 たとえばこんな記事。
 通信制高校「生徒80人に少なくとも教員1人必要」初の基準(NHK)

 元になっていると思われる資料が文部科学省のサイトにある。
 「令和の日本型学校教育」の実現に向けた通信制 高等学校の在り方に関する調査研究協力者会議 (審議まとめ案)

 上記資料はA4判18ページほどなので、時間のある時に全文目を通されるといいだろう。
 とりあえずここでは、私自身が重要だと思った部分をいくつか取り上げてみる。

【現状と課題】
 以下引用であるが、太字は筆者による。
 〇通信制高等学校は、制度創設当初は勤労青年を主たる対象としたものであったが、近年は通信制高等学校の在籍者は不登校経験など様々な事情を有する者をはじめとして多様な入学動機や学習歴を持つ生徒が入学
するとともに15 歳から 18 歳の生徒が増えるなど若年化しており、自立して自学自習を行う生徒を対象としてきた制度の前提が変わってきている
 〇通信制高等学校の在籍生徒数を見ると、高等学校の生徒数に占める割合は、昭和から平成の初頭にかけては 3%前後で推移していたが、平成 10年代以降増加し、現在では 7%超を占めるに至っており、2倍以上伸びている
 〇広域通信制高等学校の設置数は、平成 10 年以降に急増している
 〇大規模な私立の広域通信制高等学校がサテライト施設を用いて全国的に教育活動を展開している状況が見て取れる。
 〇一部の学校において違法・不適切な学校運営や教育活動が行われている事例が見受けられる

 以上が現状認識。
 次に、これを踏まえた対応策。

【対応策】
 〇通信制課程においても、高等学校教育として相応しい質を確実に確保するために、1単位当たり、例えば、面接指導と添削課題に要する学習時間(メディアを利用した学習を含め、これらに類するものを含む。)の総計を 35 単位時間を標準として設計するなどして、高等学校学習指導要領に定める各教科・科目の目標を達成するよう教育を行わなければならない旨をガイドライン等に明記していくべきである。
 〇択一式や短答式の問題が大勢を占めるような添削課題も高等学校教育として相応しい学習の質・量の観点から不適切であり、知識・技能のみならず、思考力・判断力・表現力等を育む観点からも、文章で解答する記述式を一定量取り入れるべきことを明記していくべきである。
 〇、差し当たり、少なくとも生徒数 80 人当たり教諭等が1名以上必要であることを基準として設定していくべきである。

 以上、かなり端折っているので、できれば一次資料を当たっていただきたい。
 
 ニュースでは、一般の人にも分かりやすい「生徒80人に教員一人」が主に取り上げられている。
 しかし、通信制高校サイドに立てば、1単位あたり35単位時間の学習時間や、添削課題や試験に一定量の記述式を取り入れることなども大問題であり、大規模な私立広域通信制高校からの反発も予想される。
 と思っていたら、案の定というか大手通信制のN高・S高が声明を発表した。

 「令和の日本型学校教育」の実現に向けた通信制高等学校の在り方に関する 調査研究協力者会議 「審議まとめ案」に対する意見(N高・S高)

 以下、いくつか引用する。
 太字は筆者による。
 〇今回の「まとめ案」では、通信制においても一律に「1単位あたり35単位時間の学習時間」を標準とした設計を求めることとされ、添削課題や試験に一定量の記述式を取り入れるべきなど、現行の学習指導要領の範囲を超える時間的・量的な枠を定める議論がなされています。このような一律の時間的・量的基準は、「個別最適な学び」の方向性と矛盾するものであり、逆に生徒の学びの妨げになりかねません。
 〇今回の「まとめ案」に示された教員免許に重きを置く規制は、このような人材の教育への参画を困難にし、各校の自由な取り組みを妨げるものであり、「個別最適な学び」の方向性とは乖離しているものとしてきわめて遺憾です。
 〇全体では、教員を含めて生徒約42名に1人の割合で常勤教育スタッフを配置しており、非常勤スタッフも含めれば、さらに多くのスタッフが生徒に関わっています。
 〇ごく一部の学校で不適切な運営事例が見られたことを理由に、全ての学校に対して新たな事前規制をかけることは、大多数の生徒および学校にとってはいたずらに負担を増やし生徒のニーズからますますかけ離れていってしまうことにしかなりません。

 文部科学省が、このような規制に乗り出したのは、中学生の進路選択肢として、大きな存在になってきたからだろう。
 今まで無視してきたわけではないが、それほど大きな存在ではなかったので、緩い規制しかして来なかった。
 だが、現状及び将来を考えれば、このまま野放しにはできないというのが文部科学省の立場だ。

 一方、通信制高校側。
 期制の緩さを一つの武器に拡大路線を取って来た。
 今般の規制強化により、新たな対応が迫られる。
 単位数の問題、教員数の問題、記述式の問題。
 どれを取っても収支や経営に直結する問題だ。

 文部科学省は、助成金やら卒業資格(大学受験資格)などを振りかざして規制強化に走る。
 要は、既存の枠の中に入れということだろう。
 しかし、それでは新しい学びのスタイルを目指してきた通信制高校の存在意義が問われるだろう。
 通信制高校が今後どのような対策を取って行くかが注目される。