そいつはいくら何でも範囲削り過ぎでしょう。塾の先生方の中には、そのように思われた方が多かろう。見た途端、椅子からズリ落ちた人もいるようだ。
 まあ私も驚いた一人だが、一方で、いかにも埼玉県らしいじゃないかと納得できたりもする。
 この「緩さ」と「優しさ」、そして「超安全運転」こそが埼玉県なのだ。
 まあ、ここまで削っておけば、コロナ第2波、第3波どころか、4波、5波が襲来しても心配ない。

 昨日も書いたが、社会科で「私たちと国際社会の諸問題」を除外したのは理解できるが、「私たちと経済」をまるまる除外したのは予想外だ。
 経済の前半部分では、家計(個人・消費者)や企業の経済活動について学ぶ。需要と供給とか、金融とか、だ。
 経済の後半部分では、政府の経済活動について学ぶ。財政とか、租税とか、だ。
 除外したとしても、東京都のように後半部分と思ったら、気前よく経済全カット。
 これで公民的分野の出題範囲は「私たちと現代社会」のみとなった。つまり、憲法・人権、選挙、政治制度(国会・内閣・裁判所)、地方自治に限られることになった。

 そこで、個人的に気になるのは、出題範囲から除外された「私たちと経済」、「私たちと国際社会の諸問題」に関わる問題は、これまでどれくらい出題されてきたのかということだ。
 下の表、黄色アミカケが「私たちと経済」、オレンジが「私たちと国際社会の諸問題」に関わる問題だ。水色は「私たちと現代社会」。
 
 グラフ化し、推移を見てみると下図のようになる。
 
 公民的分野の問題は、埼玉県では毎年大問5で出されることになっている。
 大問6にも1問程度は公民的分野に関わる問題があるが、ここでは省く。

◆配点としては、ちょうど50%分を除外
 公民的分野の配点は、24~25点である。地理30点、歴史30点に比べ、やや少ない。
 問題数は7~8問。
 このうち、「私たちと現代社会」に関わる問題が、3~4問あり、配点としては公民全体の40~60%を占める(過去7年間平均50.0%)。
 その裏返しが「私たちと経済」と「私たちと国際社会の諸問題」に関わる問題ということだから、こちらも過去7年間平均で50.0%。
 なるほど。
 配点で見た場合、ちょうど公民全体の50%を除外したということだ。

 もしも「私たちの国際社会の諸問題」だけの除外だった場合、過去7年間平均で14.5%の配点しか与えていないから、これでは除外範囲としてはちょっと少な過ぎるという判断なのだろう。
 だったら、東京都のように、経済の後半部分を除外範囲にすればよかった、と思うが、今さら言っても始まらない。

 他教科にも言えることだが、入試範囲から除外されたからといって、中学校で学ばないというわけではない。卒業までにはちゃんと授業でやる。
 そりゃあ、そうだろう。
 でも、そうなると1月2月の入試直前に、入試範囲外のことを授業でやることになる。生徒や保護者から不満の声が上がりそうだ。

◆除外した範囲の配点はどこに回すか
 二つの考え方ができる。
 一つは50%分、すなわち点数にして12点ほどだが、これを「私たちと現代社会」に振り替える。昨年(2020年度)を見ても、内閣成立までの流れ、裁判制度、選挙制度の3問しか出ていないから、これに基本的人権や地方自治に関する問題を加えれば、24~25点に出来るだろう。ただ、全体バランスを考えると政治部分に偏り過ぎかもしれない。
 そこで、もう一つの考え方は、地理や歴史分野の配点を少し増やす。こっちが現実的かな?

◆埼玉県内私立の対応は?
 さあ、この出題範囲を見て、県内私立はどう対応するか、だ。
 まだ未発表の県もあるが、おそらく全国最高レベルの出題範囲縮小となるだろう。
 昨日、北海道教育委員会が、出題範囲を発表したが、埼玉とほぼ近いがそれ以上ということもなかった。
 「緩さ」と「優しさ」の埼玉県公立と歩調を合わせるのか、独自路線を歩むのか。
 いずれにせよ、試験一発勝負の入試ではないという実情を考慮したとしても、このご時世、何の方針も示さないというわけにもいかんだろう。文部科学省からの出題範囲考慮要請は、公立ほどの縛りはないにしても一応私立にも来ているわけだし。

 塾の先生としては、問題は難しければ難しいほどいい、範囲は広ければ広いほどいい。そうじゃないと出番がない。
 でも、受験生・保護者のことを考えると、入試はできるだけシンプルで分かりやすいものにしたほうがいい。
 私は長期的なブランド戦略の観点から、安易な範囲縮小には否定的なのだが、結局は公立準拠に落ち着くのだろう。

 中学校にも、範囲に入ろうが入るまいが全部終わらせるぞと頑張っている先生はいるし、それに応えようとしている生徒もいる。
 塾の先生はもっとやる気満々だ。こんなんで高校に行かせられるか、全部やるに決まってんだろう。そしてここにも、応えようとしている生徒がいる。
 そういう生徒たちの努力に報いてやらないといかんだろう。

 幸い私立には、単願と併願、推薦と一般の入試区分があったりするので、それぞれで異なる対応をするという手もある。
 また、選択問題を取り入れれば、全部やってきた子に力を発揮する場を作ってやれる。
 何とか工夫して、私立らしさを出して欲しい。