大学進学実績がらみの話題が続いているが、もう少し我慢してもらいたい。
 本日は、埼玉県が誇る旧ナンバースクール・熊谷高校の凋落を憂うの巻である。
 私のかつての上司・同僚にも熊高卒業生は多い。おそらく、教育関係者が多い本ブログの読者の中にもおられるだろう。
 私としては、同じ男子校でも、川越や春日部より熊谷に仲間意識をより強く感じるのだが、それはまあ育った時代もあるし、個人の感想ということで聞き流してもらおう。

 熊谷高校は旧制の第二中学校で、創立は第一中学校(今の浦高)と同じ明治28年(1895)である。
 ちなみに第三、第四にあたる川越と春日部は、それより4年遅れの明治32年(1899)の創立である。

 では、さっそく今季(2021年3月)の大学進学実績を見てみよう。
 この1週間、本ブログで、国公立・早慶上智・MARCHのデータを発表しているので、詳細はそちらを参照してもらいたい。
◆2021年結果
 国公立  118人(10位)
 早稲田  15人(22位)
 慶応    8人(16位)
 上智    5人(24位)
 明治   49人(17位)
 中央   35人(20位)
 法政   56人(15位)
 立教   15人(34位)
 青学    6人(33位)

 人数は「のべ合格人数」であり、現役・浪人の合計である。
 この数字だけ見ると、飛びぬけて優れてはいないが、まずまずという見方もできる。
 そこで、私の手元にある2011年の結果と比べてみる。
 ちょうど10年前の結果である。

◆2011年結果
 国公立  135人( 6位)
 早稲田  59人(11位)
 慶応   16人(12位)
 上智   13人(15位)
 明治   109人( 7位)
 中央   67人( 6位)
 法政   78人( 6位)
 立教   67人(11位)
 青学   16人(14位)
 
 合格人数が減っているのは、都内私大の定員厳格化の影響もあるかもしれないが、それにしても減り方が激しい。
 表やグラフを作成すればよかったが、時間の関係で出来なかったので、分かりやすく順位だけ比較してみると次のようになる。

◆10年前との順位比較
 国公立  6位→10位
 早稲田 11位→22位
 慶応  12位→16位
 上智  15位→24位
 明治   7位→17位
 中央   6位→20位
 法政   6位→15位
 立教  11位→34位
 青学  14位→33位

 なお、同校ホームページに平成24年度から令和3年度(今年)までの合格実績が掲載されている。
 熊谷高校、過去の合格実績
 
 10年前と比べ、国公立の人数と順位だけは何とか踏みとどまっている印象だ。
 ただ、10年前は(東大1、東工大3 一橋3、北大5、東北大2)であったのに対し、今年は(北大3)にとどまっている。
 人数は維持しているが、合格している大学のレベルは低下していると言わざるを得ない。
 私立大の方で一例を挙げれば、10年前の早稲田合格者数は、公立では浦和、川越、大宮、浦和一女、春日部、川越女子に次いで7番目だった。それが今年の結果では、この6校のほか、市立浦和、蕨、越谷北、所沢北、伊奈学園、浦和西、不動岡の後塵を拝し、公立で14番目、全体で22番目まで下がっている。

 10年前の時点でもすでに、浦和、川越、春日部の男子校勢、浦和一女、川越女子の女子校勢、大宮、市立浦和の共学校勢を下回る傾向を見せていたが、これら上位校の一角に何とか食い込んでいた。
 それが現在では、栄東・開智はもとより大宮開成、昌平、淑徳与野、川越東といった私立勢にも大きく水をあけられている状況だ。これを凋落と言わずに何と言おう。

 熊谷をはじめとする埼玉県北部地区は人口の減少が続いている。
 そこへ持ってきて、熊谷市が「暑いぞ熊谷」などと正気とは思えないキャンペーンを張るものだから、ますます住みたい人が減少する。
 元々、東京方面に向かって南北の鉄道網が発達している埼玉県であるが、近年さらに利便性が増し、県南部地区や都心部への志向が高まった。
 昔あった学区制が廃止されたことも影響した。
 そして、これが特に大きいが、私立高校が台頭してきた。

 というわけで、熊高を取り巻く環境は厳しさを増すばかりである。

 私は、コロナ以前は何度も熊高の授業を見に行っているし、その他の取材でも訪問している。
 その範囲では、伝統校の良さ、男子校の良さはしっかり残していると思うし、学習指導にしても進路指導にしてもやるべきことはやっているように思える。

 だが、数字は正直である。

 進路実績を上げるには、入学後3年間の学習指導、進路指導、受験指導が重要であるのは言うまでもないが、入り口段階の募集・入試戦略も極めて重要である。
 公立は私立と一緒になって生徒獲得競争に励む必要はなく、いや、励むべきでなく、入って来た生徒をしっかり教育して送り出せばいいのだという意見もある。
 半分は同意。
 ただ、地域に1校ぐらいは公立のバリバリの進学校があってもいい。そうじゃないと、その地域の上位生は、遠くの公立に行くか、私立に行くしかない。
 
 私は募集に関わる仕事を多くやっているので、話がどうしてもそちらに向きがちだが、そこをもうちょっと考えてもらえないかと思う。
 いや別に、さぼっていると言っているわけではない。県下指折りの伝統校が定員スレスレではいかにもまずいでしょうということだ。
 頼むぜ、熊高。