地味な企画をやってみようと思う。
 たぶん、埼玉の受験業界では誰もやらない。
 誰もやらないのはニースがあまりないからだ。
 が、ほんの少しはニースがあるかもしれない。

 工業高校に関する調べである。

 埼玉県公立には「〇〇工業高校」というように、校名に工業が入る学校が8校ある。
 三郷工業技術、秩父農工科学、越谷総合技術、新座総合技術などにも工業系学科があるが、今回は割愛する。

 では8校を創立順に並べてみる。
 合わせてWEBサイト上におけるキャッチコピーも載せておく。

川越工業 1908(明治41)年
百余年の伝統と歴史が誇るものづくりの精神
工業教育の王道を歩みながら常に進化し続ける工業高校

大宮工業 1925(大正14)年
伝統の力 ここにあり

川口工業 1937(昭和12)年
地学地就
地域の信頼と期待に応える地域密着型工業高校

浦和工業 1961(昭和38)年
ものづくりの、未来をみつめて

狭山工業 1962(昭和37)年
誠実・創造・不屈・和楽 ※注:校訓である

久喜工業 1963(昭和38)年
真理を求め 技術をみがく

春日部工業 1964(昭和39)年
技を磨き心を育む

熊谷工業 1966(昭和41)年
地域の信頼と期待に応える魅力ある工業高校

◆高度成長期に続々誕生した工業高校
 歴史的には断トツ古いのが川越工業、大宮工業の2校だ。
 川越工業は染織学校としてスタートした。繊維が主力産業だった時代だ。
 この2校がキャッチで「伝統」を謳うのは当然だろう。

 戦前の創立は、上記2校に川口工業を加えた3校だ。
 川口工業は、県立川口(1941年創立)よりも早く、現存する川口市内公立高校としては、もっとも歴史が古い。
 戦後にかけて鋳物の街川口を支えたのはこの学校の出身者たちだ。

 余談だが、私が新設校・川口北の教員だったころ、市関係の集まりに行くと有力者には川口工業出身者が多く、「自分は『工業』の出身だが、川口北というのは最近できた学校らしいな。まあ頑張ってくれ」などと励まされた。

 話を戻す。

 川越工業、大宮工業、川口工業以外の5校は、すべて1960年代にできた学校だ。
 浦和工業に始まり、狭山工業、久喜工業、春日部工業、熊谷工業と、ほぼ1年1校のペースで作られた。
 今は統合再編を経て進修館となっているが、その前身の一つである行田工業も1967(昭和42)年の創立だ。
 世は正に高度経済成長時代である。
 工業高校出身者は引く手あまたであっただろう。

 1960年代前半の大学進学率は10%台。
 中卒就職も珍しくなかった時代。
 男子は工業高校、女子は商業高校というのは定番の進路だったのだ。

◆2021(令和4年度)入試における倍率
 かつて一世を風靡した工業高校であったが、今は凋落の一途をたどっている。
 直近の倍率はどうだったか確認しておこう。

 全校全学科を見たいところだが、ここでは機械科にしぼろう。
 ちなみに工業高校8校すべてにあるのが機械科と電気科であるから比較がしやすい。
 なお、倍率は受検当日の倍率である。
 事後的には同一校他学科からの第二志望合格もあり得るので、受検当日倍率の方が実態が見えやすい。
 カッコ内は募集人員である。

久喜工業・機械(80) 1.04倍
春日部工業・機械(79)1.03倍
川越工業・機械(79) 0.97倍
川口工業・機械(80) 0.96倍
熊谷工業・機械(79) 0.95倍
狭山工業・機械(80) 0.80倍
大宮工業・機械(80) 0.69倍
浦和工業・機械(79) 0.58倍

 大宮工業、浦和工業といった都市部の学校で倍率が出ないのは、公私立とも学校数が多く、その中で埋没しがちだからだろう。
 8校中6校は定員割れであるが、川越工業はあと2人、川口工業はあと3人、熊谷工業はあと4人で1.00倍に到達する。
 これなら何とかなりそうだ。

◆機械科とはどんな学科なのか
 さてそこで。
 各学校は機械科とはどういう学科か、また、どんな魅力があるかを、学校WEBサイト(ホームページ)上で、どのように紹介しているか。

浦和工業
機械科では、『ものづくり』を通じて機械に関する技術や知識の基礎を学習します。
工業の基幹である機械分野で幅広く活用できるように、設計製図から各種工作機械の操作法や加工理論、機械材料の特性などを総合的に学習します。
『健全で実践的な態度』と『確かな技術力と柔軟な思考力』をもった工業人の育成を目標としています。

大宮工業
機械科では、機械の基礎的・基本的知識や技術を学習しながら興味・関心を高め、産業界で活躍できる工業人の育成を目指します。

春日部工業
機械科では、金属材料の性質や機械の仕組み、構成する部品などを学びます。
工作機械を使用しての製作実習や実験の他にコンピュータ教室での学習もあります。

川口工業
実習動画(3本)あるが、説明はなし

川越工業
機械科は、機械の構造発展歴史に触れ、材料の性質などを通して、自ら学ぶ意欲のある生徒を育てます。
特に実習では、多様な機械に触れながら機械の操作や加工技術を学び、ものづくりの楽しさや達成感を味わう事ができるような学習を心がけています。

久喜工業
「ものづくりの本当のおもしろさを機械科で」
わたしたちは便利で快適な「もの」に囲まれて生活しています。
機械科では、生活を豊かにする「もの」を作るための 設計→製図→加工→組み立て→検査→保全( メンテナンス)について体系的に学びます。
また、3Dプリンタやマシニングセンタなどコンピュータを使った最新の技術も学びます。
普段何気なく使っているものを、作り手の目線から見てみませんか?

熊谷工業
実習動画(1本)あるが、説明はなし

狭山工業
機械科では、工作機械を操作して「ものづくり」の技術を養う実習と、教室で知識を身につける授業があります。
1年生の「工業技術基礎」2・3年生の「機械実習」で、工業に必要な技術を週1回学ぶ専門科目があります。
少人数制で行うので、より深い技術を学ぶことができます。
3年生の「課題研究」で、様々な取り組みを行います。
「ものをつくる」喜びと、「人々を楽しませる」喜びを、知ることができます。
「高度熟練技能者」の先生を招いて、技能検定合格やものづくりコンテストの上位入賞を目指し、「技」を磨いています。

 浦和工業や川越工業の説明あたりがもっともオーソドックスな表現だろうか。
 ただ、個人的には久喜工業の説明が一番分かりやすいと思った。
 久喜工業は、専門科目の授業内容についても分かりやすく説明している。
 狭山工業もなかなか良い。
 川口工業、熊谷工業はテキスト(文字)による説明がない。

 動画で実習などの様子が見られるのは、大宮工業(3本)、川口工業(3本)、熊谷工業(1本)である。
 中学生は技術家庭でほんの少しものづくりの経験がある程度だ。
 個人の趣味レベルではいろいろあるかもしれないが、授業としてはそんなものだ。
 また、中学校の先生や塾の先生の中に、工業高校出身者はほとんどいない。
 工業大学や工学部出身者はそこそこいるかもしれないが、いずれにしても工業高校とはどんな学科であるかを生徒に語ってやれる人は限られている。
 だから、工業高校の魅力を伝えるには、テキスト(文字)による説明だけでなく、動画を活用すべきだろう。

◆前年度、説明会が多かったのは?
 県立総合教育センターのサイトに公立各校の説明会等日程が掲載されている(今年のはまだ)。
 コロナの関係もあり、実際に行われたかどうかは不明だが、予定していた説明会等の回数だけ確認してみよう。
 (なお、部活体験・見学などはカウントしない)

 回数がもっとも多かったのは久喜工業で、説明会5回・体験入学2回・トワイライト説明会5回で計12回。
 以下、浦和工業9回、川口工業・大宮工業・熊谷工業各8回、川越工業・狭山工業各6回、春日部工業5回となっている。
 体験入学は各校とも計画していたが、2回計画していたのは久喜工業だけである。
 説明会等入試関連イベントの開始時期は川越工業がもっとも早く、5月・6月に各1回の説明会が計画されていた。
 熊谷工業も6月に説明会が計画されていた。

 説明会等入試関連イベントの回数やその開始時期と、倍率との明確な相関関係は見られないが、一般論としては回数は多い方が良く、開始時期も早い方が良い。
 あとは定着率(志願率)を高めるための内容や演出次第だろう。

◆先生と生徒のいい関係
 工業高校8校中7校は取材経験がある。
 昨年行ったのが春日部工業、その前が浦和工業、久喜工業だったと記憶している。
 残念ながら行けるのは1年に1校だ。

 工業高校は途中で進路変更したり中退したりする生徒も少なくない。
 特に下級生(1年生)の時に多いようだ。
 上級生になるにしたがって、一般教科より専門教科が増え、実習も多くなる。
 そうなると好きなことを一日中やっていられるので、学校も楽しくなる。
 取得資格も増え、進路も明確になってくる。

 先生は技能技術を持った職人でもあるから、生徒からリスペクトされている。
 ある意味、師匠と弟子のような関係だ。
 取材を通じて、そうした姿をたくさん見てきた。
 「ハマる」という言い方があるが、うまくハマった子にとっては楽しく、やりがいのある高校生活になるだろう。

 以上、あまりニーズがあるとは思えない工業高校(特に機械科)の話であった。