昨日、新座総合技術高校デザイン科・青木邦眞先生の彫刻展を見に行った。
 銀座のギャラリーを10日間借り切っての個展だ。

 多くの方はご存知かと思うが、私は若い頃公立高校教員であり、その大半は川口北高校で過ごした。
 青木邦眞先生は、その時の生徒。
 そういう関係だ。
 だから、その彼が、忙しい校務の合間を縫い、膨大な時間をかけて創り上げた作品を発表するとあれば何はさておき駆けつける。

 断っておくが、私は美術方面はまったくダメだ。
 自慢じゃないが小中学校を通して図工と美術は一度も5を取ったことはない。
 先日、妹から亡母が保管しておいた小学生時代に描いた写生画を見せられたが、ひどいものだ。
 センスの欠片もない。
 だったら、下手は下手なりに一生懸命描けばいいのだが、やる気の無さが筆づかいに見事に現れている。
 そういう人間なのだ。

 では、ただ単にお付き合いで言っているのかというと、そんなことはなく、彼の創り出す独特の世界観が気に入っているものだから、時間を捻出し、鑑賞に行くのである。
 今回は何と知り合いを誘って行ったのだ。
 基本単独行動の私としては珍しいことだ。
 
 で、ようやくタイトルにたどり着くわけだが、芸術家は羨ましいなという話である。
 青木先生は一昔前なら定年退職となる年齢だが、今は雇用期間が延びたので現役を続けている。
 しかしそれもあと4、5年だ。
 いずれ教壇から去る時がくる。
 だが、彼には彫刻家としての第二の人生が待っている。
 今は授業や校務の傍ら、細々とだが、引退後は創作活動に専念できるのだ。
 彼がどんな人生設計をしているかは分からないが、仮にそうなったら、今よりもっと多くの作品を創造してくれるだろうし、まったく別の世界を切り開いてくれるかもしれない。

 芸術家は羨ましいなとはそういうことだ。
 もう一つの自分の世界を持っている。

 いや別に芸術でなくてもいいのだ。
 学問でもいいし、何なら趣味の世界でもいい。
 現役時代から、仕事の傍らコツコツと切りひらいてきた自分の世界。
 第一線を退いたら、今度はそちらが主戦場となる。
 人生100年時代。
 すばらしい生き方ではないか。

 それに引き換え自分は。
 今の仕事を離れたら生きる世界がない。
 (行ける世界はあるんだけどね。まだ行きたくない)

 ちなみに青木先生は剣士でもあるのだ(高校時代は剣道部)。
 さらには意外にもライダーでもある。
 一体、いくつ世界を持っているのだ。
 というと教員としてどうなのと思う人もいるかもしれないので、彼の名誉のために言っておくが、素晴らしい授業をやるよ。
 それに、学校の募集広報活動にも熱心で、年中私のところに質問や相談をしてくるよ。
 本業はおろそかにしない。

 で最後に、読者の皆さんより10年か20年は年長であろう私から知った風なアドバイスを送っておこう。
 第一線を離れてからまったく新しい何かを始めるのは大変なことだ。
 100%無理とは言えないが体力的にきつい。
 だから、現役のうちから秘かに(もちろん大っぴらでもいいが)、自分のもう一つの世界を作っておこう。
 しっかりと準備運動をしておいて65歳になったら一気に羽ばたく。

 年老いて昔話を語るだけの人生はつまらんよ。

 ●青木邦眞彫刻展
 8月19日(月)~30日(金)
 ギャラリーせいほう(中央区銀座8-10-7 東成ビル1F)