学校の「売り」にはいろいろなものがある。
 進学実績が優れている。
 施設設備が充実している。
 部活が強い。
 交通の便が良い。
 と、数え上げれば切りがない。

 そんな中。
 こんなことを「売り」にしている学校がある。
 というのが今日の話題だ。

 「こんなこと」とは、「教員1人当たりの生徒数」である。
 この学校(関東の私立高校である)、学校案内パンフレットで「教員1人当たりの生徒数=13.2名」と謳っている。
 ついでに、「専任率=80.9%」もアピールしている。
 ここは全校生徒数2500人を超える大規模校なので、教育環境があまり良くないのではないかというイメージを持たれがちだ。
 1クラスの人数が多いのではないかとか、非常勤教師の数が多いのではないかとか、そんな不安を持つ受験生・保護者も少なくないだろう。
 そこで、「先生の数は多いですよ。しかも大多数が専任ですよ」と具体的な数字をあげ、「だから行き届いた指導ができますよ」と強調しているわけである。

◆13.2名は「売り」になるのか
 さてそこで。
 某私立高校が掲げている「教員1人当たりの生徒数=13.2名」という数字は「売り」になる数字なのか、である。
 静岡県伊東市の田久保市長は自称卒業証書を19.2秒見せて胸を張ったが、はたして13.2名は自慢できる数字なのか。

 埼玉県が公表している「令和7年度埼玉県学校便覧」で調べてみた。
 この資料で、埼玉県内の、国公私立の、小中高の、学校ごとの、教員数及び児童生徒数を確認できる。

 【埼玉県・全日制・県立高校】
 在籍生徒数(A) 94.687名
 本務教員数(B) 7.044名
 教員1人当たり生徒数=A/B=13.4(名)

 一応このような数字となった。
 本務教員には当然ながら非常勤講師は含まれない。
 ただし、校長・教頭などは含まれるので、担任を持ったり授業を担当したりする教諭だけで計算すると、もう少し数字は上がるだろう。
 細かい話を始めると切りがないが、埼玉県の全日制県立高校の数字が「13.4名」ということは、おそらく全国の公立もこれに近い数字なのだろう。
 だとすれば、前出の某私立高校が「13.2名」を強調するのは、それほど間違ってはいないと言えるだろう。

◆埼玉県私立高校は18.1名
 では、埼玉県私立高校(全日制)はどうなのか。

 【埼玉県・全日制・私立高校】
 在籍生徒数(A) 53.887名
 本務教員数(B) 2.969名
 教員1人当たり生徒数=A/B=18.1(名)

 やはり公立よりはやや多くなっているが、思ったほど多くはない(個人の感想)

 県立の最大サイズが生徒数(在籍数)1080名(1学年360名×3、伊奈学園除く)であるから、これ以上の規模の私立について見てみよう。
 なお、在籍数が定員に達していない学校は除く。

●花咲徳栄 1614/115=14.0
●栄北   1187/78=15.2
●星野   1771/114=15.5
●埼玉栄  2607/165=15.8
●山村学園 1389/85=16.3
●栄東   1468/89=16.5
●昌平   1437/82=17.5
●川越東  1433/77=18.6
●浦和麗明 1088/58=18.8
●開智   1796/93=19.3

 以上が比較的規模が大きく(在籍1080名以上)、かつ定員に達している学校の中で、教員1人当たり生徒数が20人を下回っている学校である。
 浦和学院・浦和実業・叡明・春日部共栄・西武文理・獨協埼玉などは20名を超えている。
 規模は大きいが総定員を僅かに下回っている学校では、大宮開成が(1487/81=18.4)、正智深谷が(1017/51=19.9)、本庄東が(1157/66=17.5)などとなっている。

 これらの数字だけで、いわゆる少人数授業が行われているかどうかを判断することはできない。
 学級編成や教育課程など詳しく見て行かないと実態はつかめない。

 今はあまり使われないが、かつて「マスプロ教育」という言葉があった。
 大教室で多数の生徒や学生に一斉授業を行う形を言ったものだが、今の時代、こんな教育をやっている学校はないだろう。ただ、昔の教育を受けた人の中には「大規模校=マスプロ教育」というイメージがこびりついている人がいるかもしれないので、「決して、そんなことはありませんよ」という意味で、こうした数字を示すのも一つの方法だろう。