本日は学校や入試とは少し、いや、だいぶ離れた話題だ。
 久しぶりに芝居を観てきた。
 
 劇団こまつ座公演
 「雪やこんこん」
 作:井上ひさし
 出演:熊谷真実ほか

 熊谷真実さんは、1979年NHKの連続テレビ小説(朝ドラ)の第23作「マー姉ちゃん」で主役を務めた。
 当時はまだ十代か。
 その熊谷さんも、すでに還暦を迎えられた。
 つかこうへい氏と結婚し離婚し、その後18歳年下の書道家と結婚し離婚し…
 という話はどうでもよくて、大衆演劇を描いたこの作品、かつては市原悦子、高畑淳子が座長中村梅子役を演じた。
 どちらかと言うと清純派、というか可愛い系の熊谷さん、ちょっとイメージが違うんじゃないか。
 はたして、旅の一座の女座長をどう演じるか。そこは興味はあった。

 が、またまたその話ではなく、作者の井上ひさしである。
 井上は2010年に75歳で没している。
 我々世代なら誰もが知っている「ひょっこりひょうたん島」の作者(共作)として頭角を現し、1972年「手鎖心中」で直木賞を受賞した。
 その後次々とヒット作を生み出すが、その真骨頂は戯曲にあった。

 私が最初、偶然手にしたのが「表裏源内蛙合戦」という戯曲であった。
 大学生の時だ。

 高校生の頃はフランス、ドイツ、ロシアといった海外小説を読み漁っていた。
 大学生になってからは、当時の流行であった大江健三郎、安倍公房、埴谷雄高、吉本隆明、高橋和己などに手を出し、一気に左旋回するのである。
 が、その一方、三島由紀夫に凝ったかと思うと、急に司馬遼太郎に移ったりと、訳のわからん読書生活をしていたのだ。
 そんな時出会ったのが井上ひさしで、例によって徹底的に読み倒すのである。

 と言っても、井上の場合、作品と出会ったのが、ほぼ彼のメジャーデビュー期に重なっていたので、過去作品はほとんどなく、新作が出るたびに買い続けるというスタイルになった。
 ざっと5、60冊。
 文庫本ではなく、すべて初版本というところが、我ながらすごいと思う。
 印象に残っているのは、やはり小説よりも戯曲で、1970年代の作品である「道元の冒険」「藪原検校」「天保十二年のシェイクスピア」などが印象に残っている。
 1980年代だと「頭痛肩こり樋口一葉」あたりか。
 残念ながら「雪やこんこん」はそれほど強い印象が残っていない。

 井上作品に惹かれたのは、おそらく、その言語感覚だろう。
 日本語(国語)に関しては、国文学者顔負けの博識だったという。
 言葉の面白さは、やはり戯曲でこそ生かされるので、小説よりも戯曲に名作が多いのだろう。

 1990年代、2000年代にも多くの小説・戯曲を発表しているが、個人的にはやや興味が薄れ、新刊が出ても読むことはなくなった。
 井上が徐々に政治的な発言を多くするようになったことも関係していると思う。
 右とか左という問題ではない。
 素の自分が出てきて発言するようになると、だいたい作品はつまらなくなる。

 ところで、今日の会場は紀伊国屋サザンシアター。
 (新宿タカシマヤタイムズスクエア内)
 コロナの影響で座席は少し間隔を開けるのかと思っていたが、すき間なく468席は満席。
 行き帰りの電車もかなりの混雑ぶり。
 浦和にいるとあまり感じないが、世の中ようやく下に戻りつつある。