少年の心を捨てよ。もちろん少女の心も、だ。
 成人式を迎えた諸君。今この場でとは言わない。明日からとか明後日からとか、そういう性急な話でもない。時間はかかるかもしれないが、少年の心、少女の心を捨てようではないか。それが大人になるということである。

 人が何か新しいものを手に入れるということは、何か古いものを手放すということである。
 目の前に欲しいものがあるが、両手がふさがっている。大事なものが握られている。だが、それを手放さなければ、欲しいものを手に入れることができない。
 少年の心、少女の心は失いたくない。しかし、それを手放さない限り、あなたがたは大人の心を手に入れることができないのだ。

 いい年してガキ大将みたいにパワハラを繰り返す上司がいる。思春期の中学生みたいに下ネタで盛り上がるバカ中年がいる。ちょっと肩が触れた程度で「てめえ、ざけんなよ」とキレるオヤジがいる。「まるで姉妹みたい」と娘の同級生に言われ有頂天になっているアホ女がいる。
 少年の心、少女の心を捨てそこなった人間の憐れな姿だ。

 子供の頃の好奇心は捨てがたい。しかし、あえて捨てることであなたがたは探究心を手に入れることができる。
 正義感は失いたくない。しかし、それを手放す代償として寛容を手にすることができる。

 あなたがたには、見かけだけの大人ではなく真の大人になってもらいたい。今日はその出発の日である。
 今日、家に帰ったら、やって欲しいことがある。今まで大事にしてきた宝物を何か一つ捨てて欲しい。捨てられずにずっと取っておいた何かを捨てよう。ゴミとして処分することに抵抗があるなら、親戚の子にでも近所の子にでもくれてやればいい。要は手放すことだ。これが大人になるための儀式だ。

 そして、自由になった両手で、明日から何か新しいもの、これから必要なものを掴み取ろうではないか。
 
 以上。簡単ですが成人の日を迎えた皆さんへのお祝いの言葉とします。

 ※旧ブログに「式辞とご挨拶」というカテゴリーがあって、いくつかそれらしい文章を書いてきたが、そう言えば新ブログになってからそのような文章は書いてなかったなと思い出し、もし自分がお祝いを述べる立場だったらと想定して書いてみたわけである。