2月13日、埼玉県から2020年度当初予算案が発表された。一般会計の総額は1兆9603億円で過去最大規模である。
 私の関心事の一つは、私立高校授業料無償化なので、今日はそこのところを確認しておこう。
 
 結論を先に言っておくと、私立高校授業料の無償化拡大のために約150億円(149億9700万円)が計上されている。
 これにより年収約720万円未満世帯まで、授業料が実質無償化される(現行609万円未満)。
 すでに東京都が年収目安910万円未満の世帯に対し、支給上限額を年46万1,000円(都内私立高の平均授業料相当額)にする方針を発表しているので、それと比べると見劣りするが、一歩前進と言えるだろう。
 入学金に対する補助10万円(年収609万円未満)、施設費等納付金に対する補助20万円(年収500万円未満)は継続される。

 私が公立中学校で講演を行う際に、学校や保護者の方から必ず求められるのが、私立の学費及び支援金制度の話をして欲しいということだ。
 中学校にも国や県から説明リーフレットなどが来ているはずだし、先生に聞けばいいでしょうと思うのだが、どうも十分な説明を受けていないらしい。

 元公立学校教員という立場から推測するに、家庭の年収に触れるような話は、教室ではしにくいのかもしれない。だが、公表され、ニュースでもしばしば取り上げられていることであるから、機会を設けて周知を図っていただきたい。

 現状では、多くの保護者が、塾や、私立学校主催の説明会・相談会で説明を受け、はじめて理解するといった状況なので、塾や私立学校の先生方におかれては、公立中学校では説明を受けていないという前提に立ち、詳しい説明をお願いしたい。

 補助金の原資はもちろん税金である。
 世帯年収が900万から1000万を超えるあたりになると、公立に行くにしても私立に行くにしても授業料は無償にはならない。その人たちからすれば、自分の払った税金は、自分自身には還元されず、より所得の低い人たちへの補助金に回って行くわけだが、これは税による所得再分配であり、取り立てて問題にすることではない。

 いっそ年収制限など撤廃して全員無償にしてはどうかという意見もあるが、この場合、高額所得者ほど恩恵を受けやすくなる。今まで払ってきたものが丸々浮き、可処分所得の増大という効果をもたらすからだ。
 このような逆進性を是とする人は少ないであろうから、一定の所得制限を設けたほうがいいだろう。問題はどのあたりで線引きをするかである。

 もう一つ。
 私立高校になぜ公金(税金)を投入するのかと言う人がいるが、民間企業と私立学校を混同した議論である。私立高校は広義には公教育の一翼を担っている存在だ。
 埼玉県では全日制普高校進学を希望する中学生が5万3363人(令和元年12月15日調査)いる。それに対し募集人員は3万7280人である。
 5万3363人-3万7280人=1万6083人
 公立は元々全員分の受け皿を用意していないのである。公立と私立が一緒になって、県民の高校教育を受ける権利を保障しているのである。だから、私立も広い意味での公教育を担っているのであり、そこに公金(税金)を投じることに何の問題もない。
 仮にすべての高校進学希望者を公立で受け入れようとしたら、240人規模の学校なら、あと67校、320人規模なら、あと50校必要という計算になる。「好きで私立に行くのだから全額自己負担せよ」というなら、これだけの学校とそれに伴う数千人の公務員(教職員)増員を覚悟しなければならない。はたして、公金(税金)の使いみちとしてこれでいいのかという話である。
 かかるコストと得られる利益という観点に立てば、すべて公立にし、公務員を雇って運営するより、一部を私立に任せ、運営補助金・助成金といった形で公金(税金)を投じるほうが、全体として納税者が得られる利益は大きいという考え方だ。