2019年10月に出た本なので、すでにお読みになった方も多いと思うが、「ケーキの切れない非行少年たち」(宮口幸治著:新潮新書)を紹介しておこう。
 筆者の経歴を見ると、京都大学工学部を卒業し建設コンサルタント会社に勤務後、神戸大学医学部を卒業、児童精神科医として精神科病院や医療少年院に勤務、とある。現職は立命館大学教授だ。
 大学は一つ出れば、それも京大であれば十分だと思うが、何か心に期すものがあったのだろう。

 まずタイトルが秀逸だ。
 本の帯に「大反響、10万部突破」とあるが、半分はタイトルの功績だろう。小説ならばタイトルも作品の一部として著者自身が付けるのだろうが、新書やビジネス本の類だと、出版社側の編集者が筆者と相談して、売れそうなタイトルを付けるのが普通だ。この本がもし、「非行少年はなぜキレるか」というタイトルであったら、手に取る人はもっと少なかっただろう。タイトルは大事だ。

 大規模な調査や実験を基にしたレポートや論文ではなく、主に著者の経験に基づいた知見が中心で、かつ手軽に読める新書本であるから、学問的な評価がどのようなものであるかは分からない。
 が、私のような素人には丁度良く、気づかされることの多い本であった。

 筆者は、医療少年院で見た非行少年たちの特徴を、こう記している。
 ・簡単な足し算や引き算ができない
 ・漢字が読めない
 ・簡単な図形が写せない
 ・短い文章すら復唱できない

 うーん。どこにでも居そうじゃないか。世間で言う、学力不足の子だ。
 じゃあ、このような子が全員非行少年(少女)になるかというと、もちろんそんなことはないわけだが、学校教育で言うところの基礎学力というやつを付けてやることの重要性を改めて感じるのである。

 「褒める教育だけでは問題は解決しない」(第6章)。
 これまた、考えさせられる指摘だ。筆者は褒める教育を否定しているわけではないが、「褒める」とか「話を聞いてあげる」は、根本的解決にはなっておらず、問題を先送りしているだけだと主張するのである。
 勉強ができなくて自信を失くしている子に、運動ができるじゃないかと褒めても、勉強ができないという事実は変わらないのだから、勉強への直接的な支援が必要なのだ、と。

 他にも、そうだ、なるほどね、と思う部分が多々あるので、非行少年に接しているわけではない皆さんにも一読をお勧めする。最終章はご自身が開発された「コグトレ」という認知機能トレーニングのPRみたいになっているけど、それはまあ許容できる範囲でしょう。