秋は文化祭シーズンである。
 埼玉県内では、特に9月前半の土日に開催日が集中している。多くの学校が一般公開を行い、受験生や保護者の積極的な来場を呼びかけている。

 文化祭は学校広報の絶好の機会である。これは間違いない。
 ただし、生徒募集につなげようとするなら、「誰に来てもらうか」はもう少し慎重に考えたほうがいい。

 結論から言えば、文化祭で積極的に呼ぶべき相手は、中学3年生よりも中学1・2年生である。場合によっては、小学生とその保護者まで対象にしてもいい。

◆9月の中3生は、すでに受験のど真ん中
 9月といえば、埼玉県内私立高校入試まであと3か月、公立高校入試まではあと4か月。
 つまり、中学3年生にとって、そろそろ「どの学校を見ようか」と考え始める時期ではない。夏休みまでに何校かを見学し、秋には志望校をある程度絞り込み、説明会や個別相談で具体的な確認を進める時期である。

 その段階になって、文化祭を利用して初めて学校の雰囲気を見に来るのだとしたら、その生徒の動きはかなり遅い。
 もちろん、家庭の事情や部活動の日程、志望変更など、さまざまな理由はあるだろう。全員を一括りにするつもりはない。
 しかし、確率論で言えば、この時期まで学校選びがほとんど進んでいない中3生は、高校側がどうしても獲得したい中心層なのかという疑問は残る。
 まだ迷っているので学校説明会に来る、入試制度を確認するため個別相談に来るというなら分かる。そこには具体的な受験行動がある。

 一方、「何となく雰囲気を見たい」「楽しそうだから行ってみたい」という目的で文化祭を訪れる中3生は、学校選びの進行状況としては、周回遅れと言っていい。
 言い方は悪いが、高校側がそうした生徒を取り逃がしたところで、募集全体に与える影響はそれほど大きくないのではないか。

◆文化祭は中1・2生の入門編に向いている
 では、文化祭に誰を呼ぶべきか。
 中学1・2年生である。

 彼らはまだ入試直前ではない。偏差値や内申点、入試基準だけで学校を見る段階にも入っていない。高校とはどのような場所なのか、高校生はどのように過ごしているのかを、素直な興味から見ることができる。
 文化祭には、その入口としての強みがある。

 学校説明会では、教育課程、進路実績、入試制度、学校生活など、どうしても説明中心になる。中学1年生には少し難しく、退屈に感じられることもある。
 その点、文化祭なら校舎に入り、展示を見て、食べ物を買い、高校生と話すことができる。高校という空間を理屈ではなく体験として知ることができる。

 「この学校は楽しそうだ」
 「高校生が親切だった」
 「この部活動に入ってみたい」
 
 最初の印象は、その程度でいい。

 中学1・2年生の段階で学校名を覚えてもらい、翌年に説明会や部活動体験へ来てもらう。そこから授業見学、個別相談、出願へとつなげていく。
 文化祭は単独で志願者を獲得する行事ではなく、数年かけた募集広報の入口として考えるべきなのである。

 部活動体験や授業体験についても同じことが言える。受験学年になってから慌てて呼ぶのではなく、できるだけ早い段階で学校との接点をつくる。
 中3生ばかりを追いかける募集広報から、中1・2生を育てる募集広報へ。少子化が進む中では、こうした発想がますます重要になるだろう。

◆文化祭で「普段の姿」は見られるのか
 もう一つ、文化祭についてよく言われることがある。
 「文化祭では生徒の普段の姿が見られる」というものだ。

 しかし、これは少し正確さを欠く。
 文化祭は、1年間の学校生活の中で、わずか1日か2日しかない特別な行事である。教室は展示会場や模擬店に変わり、生徒は衣装を着たり、呼び込みをしたり、舞台に立ったりする。
 時間割も授業もなく、来校者で校内が埋まり、学校全体が高揚した空気に包まれる。
 どう考えても非日常である。

 そこで見られる姿を、そのまま「普段の生徒の姿」と呼ぶのは無理がある。
 より正確に言うなら、文化祭で見られるのは、授業や勉強から離れた場面での生徒の姿である。
 仲間と協力して企画を動かす姿、人前で説明する姿、来場者に声をかける姿、トラブルに対応する姿。これらも確かに生徒の一面である。

 ただし、それは日常のすべてではない。
 文化祭で明るく活発に見えた生徒が、普段の授業でも同じとは限らない。逆に、文化祭では目立たない生徒が、授業や部活動では中心的な役割を果たしていることもある。
 文化祭だけで校風や生徒像を判断するのは危険である。

◆授業見学とのギャップに価値
 できれば文化祭だけではなく、授業見学にも参加してもらいたい。
 授業中の生徒と文化祭の生徒を両方見ると、その学校の姿が立体的に見えてくる。
 静かに授業を受けていた生徒が、文化祭では大きな声で来場者を案内しているかもしれない。文化祭では華やかに振る舞っていた生徒が、授業では落ち着いて真剣に学んでいるかもしれない。
 そのギャップが面白いのである。

 人間は一つの顔だけを持っているわけではない。学校も同じである。
 勉強している時間、部活動に取り組む時間、友人と過ごす時間、行事をつくる時間。それらを合わせて初めて、その学校らしさが見えてくる。
 文化祭は学校のすべてを見せる場ではない。学校の一面を、非常に分かりやすく見せる場である。
 そう位置づけるのが適切だろう。

◆1校だけでは違いが分からない
 文化祭を見るなら、できれば複数校を訪ねてほしい。
 1校だけを見ても、それがその学校独自の特徴なのか、どの学校にも共通するものなのか判断しにくい。
 複数校を見れば、違いが見えてくる。

 生徒が自分から声をかけてくる学校もあれば、内輪だけで盛り上がっている学校もある。展示内容を丁寧に説明できる学校もあれば、説明が十分でない学校もある。
 生徒同士の関係、大人とのコミュニケーション、小さな子供への接し方、困っている来場者への対応などにも差が表れる。

 学校側が用意したパンフレットや説明だけでは分からない部分であるが、ただし、それも文化祭という特別な状況での一場面にすぎない。印象を絶対視せず、学校を知るための一つの材料として受け止めるべきだろう。

◆中3生が息抜きに来るのは悪くない
 誤解のないように言っておくが、中学3年生が文化祭に来ること自体を否定しているわけではない。

 受験勉強の息抜きとして訪れるのもいい。志望校の高校生と触れ合い、「来年は自分もここにいたい」と思えれば、勉強のモチベーションにもなる。
 すでに志望校を決めている生徒が、最後の確認として訪れるのも意味がある。

 違和感があるのは、9月の文化祭を中3生向けの主要な学校選びイベントとして位置づけることである。
 この時期に、受験のど真ん中にいる中3生が、学校選びを主目的として初めて文化祭に来る。それを高校側が重要な募集機会として待ち構えているとしたら、双方とも、少し時期がずれているのではないか。

 文化祭は、中3生を最後に刈り取る行事ではない。
 中1・2生や小学生に、高校という場所を知ってもらい、学校への関心を育てる行事である。
 生徒募集につなげたいのであれば、目先の出願者数だけを見るのではなく、2年後、3年後の志願者を育てる視点が必要だ。