学校の先生方は人前で喋ることには慣れている。毎日やっていることだから当然だ。
 別に目の前に何百人いようが、それで上がってしまって喋れないなんてことはないだろう。
 が、そういう話すことが商売と言ってもいい先生方でも、説明会における挨拶やスピーチや説明、プレゼンテーションとなると、どうも「いまいち」という場合が多い。

 私は、教職を離れて何十年にもなるが、今も講演会やセミナーで人前で話すことがある。
 授業との決定的な違いは、基本的に聴衆が初対面であることだ。
 相手が何を考えているのか、何を聞きたがっているのかが分からない。

 授業の場合は、生徒が何を聞きたがっているかは考えなくていい。
 聞きたくないという生徒に無理やり聞かせたって構わない。
 ある意味、「言いたいこと」を言えばいいのだ。

 しかし、講演会などでは相手が「聞きたいこと」を話さなければならない。
 ついでに言えば、講演会などには通常主催者がいるわけだから、主催者が「話してほしいこと」にも応えなければならない。
 そうしないと二度と声がかからない。
 つまり、講演会などにおける話の内容の優先順位は次のようになる。
 1位「(聴衆が)聞きたいこと」
 2位「(主催者が)話してほしいこと」
 3位「(自分が)言いたいこと」

 では、学校説明会などでの説明はどうなるか。
 自らが主催者であるから、「(受験生・保護者が)聞きたいこと」と、「(学校側が)言いたいこと」の二つを考えればいい。
 立場が異なるから、「聞きたいこと」と「言いたいこと」の間には当然ズレがある。
 学校側が「言いたいこと」に終始すると、「あの、聞きたいのはそこじゃないんですけど」とか、「そこ、もう少し詳しく聞かせてもらえませんか」となり不満が残る。

 と言って、受験生・保護者の「聞きたいこと」ばかりに気をとられると、学校としての重要なアピールが疎かになる。
 聞き手というのは、実は自分自身でも何が聞きたいのか分かっていないところがあって、こちらが話すことによって、「そう、その話が聞きたかった」などと言い出すのである。
 だったら最初から言えよ、なのだが、自分でも分かっていなかったのだから仕方ない。

 ということで、「聞きたいこと」と「言いたいこと」のバランスはなかなか難しいのであるが、私が実際に見聞きした範囲では、どちらかというと「言いたいこと」の分量が勝ちすぎているという印象である。
 
 ところで。
 ここまで、「聞きたいこと」という表現をしてきたが、より正確には「聞きたいであろうこと」である。
 想像力全開にして、「聞きたいであろうこと」を探る努力をしなければならない。
 今は、WEBでの事前登録が必須となっているから、申し込みフォーム中に、「当日、聞きたい話」、「本校への質問」といった形で、一種の事前アンケートをとるのも一案だ。
 また、個別相談などで受けた質問を集約すれば、受験生・保護者が何に悩み、何を不安に思っているかが見えてくるだろう。
 そういった内容を随所に盛り込めば、「聞きたいこと」というニーズにかなり接近することができるだろう。

 本格的な学校説明会シーズンを迎えたので、今後何回かこの話題を取り上げるつもりだ。