文化庁は9月24日、令和2年度「国語に関する世論調査」の結果の概要を発表した。平成7年以来、毎年発表されているもので、新聞やニュースでご覧になった方も多いだろう。

 文化庁は文部科学省の外局で、芸術文化や文化財に関すること、著作権に関することなどのほか、国語政策・日本語教育も担当している。行政機関だが長官は民間人から登用されることも多く、現在の長官は作曲家の都倉俊一氏である。
 作曲:都倉俊一、作詞:阿久悠と言えば、「UFO」「サウスポー」「ペッパー警部」などピンクレディーの数々のヒット曲が思い浮かぶが、個人的には同じコンビの作品である「ジョニーへの伝言」「五番街のマリーへ」の方が好みだ。

 さて、国語世論調査の方だが、新聞やニュースでご覧になった方は、その範囲で十分と思うが、もう少し詳しく知りたい方は元の資料を当たってもらおう。
 調査では近年辞書にも載るようになった新しい表現について調べている。
 「めっちゃおいしい」
 「鬼かわいい」
 「じみに痛い」
 「そっこう帰る」
 「まるっとわかる」
 これらについて、自分で使うことがあるか、他人が使うのは気にならないかと尋ねている。
 当然と言うべきか、若い世代ほど自分でも使い、他人が使うのも気にならない。
 
 年代別にも調べているが、70歳以上でも「めっちゃおいしい」は22.2%が使うと答えている。その他はだいたい1ケタ%ということで納得できるが、「鬼かわいい」を使うジジイやババアが4%いる。可愛くねえ年寄りだ。

◆「やる」か「あげる」か
 次のような場合、「やる」と「あげる」のどちらを使うかも調べている。
 結果と共に記すと以下のようになる。

 「植木に水をやる」 63.5%
 「植木に水をあげる」35.1%

 「うちの子におもちゃを買ってやりたい」34.5%
 「うちの子におもちゃを買ってあげたい」64.2%

 「相手チームにはもう1点もやれない」76.6%
 「相手チームにはもう1点もあげられない」22.2%

 元々は「やる」が普通だったが、近年「あげる」が台頭してきている様子を示している。
 相手が動物や植物であれば「肥料をやる」「餌をやる」が本来は正しい。
 また、相手が身内や年下であれば「弁当を作ってやる」「駅まで車で送ってやる」でいい。
 まして相手が対立し、敵対する関係であれば「やる」「やらない」を普通は使う。相手チームに点数あげっちゃってどうする。強盗犯は「てめえ、殺してやる!」とすごむものであって「殺してあげる」などと言うものではない。

 当該結果報告では、「謙譲語から美化語に向かう意味的な変化は既に進行し、定着しつつあると言ってよい」と分析している。
 美化語というのは、丁寧語とはちょっと違っていて、「菓子」を「お菓子」、「米」を「お米」と言ったりするようなことを指す。
 つまり、「やる」というのは、下品で乱暴な感じがするから、優しく上品な「あげる」を使いましょうということのようだ。

◆分子と分母に同じ数をかけてあげる
 私は以前から、数学の先生が「分子と分母に同じ数をかけてあげる」とか「補助線をひいてあげる」といった具合に、「あげる」を連発するのが気になっていた。
 相手は数字やグラフや図形なんだから、「かけてやる」「ひいてやる」または「かける」「ひく」でいいじゃないか。

 だが、ようやく分かった。
 美化語だったのね。
 愛おしいペットに「餌をやる」だなんて乱暴な言い方ができないのと同じ感覚。数学愛なんだ。
 となると、そのうち「補助線を引いて差し上げる」とか「補助線を引かせていただく」って、なるんだろうね。

 最後に、保護者の方のために入試がらみの話をしておくと、敬語に関する出題は毎年というわけではないが、結構出ている。子供たちは尊敬語と謙譲語と丁寧語の区別できていないみたい。それと、話し言葉と書き言葉の区別。学校でも教えるが、言語は日常生活の中で習得して行く面も多分にあるので、少しは意識したほうがよろしい。