顧客の意見を聞くべきか、聞かざるべきか。
 あるいはまた、現場の声を聞くべきか、聞かざるべきか。

 まあ、聞かないという選択肢はないだろう。
 なにせ、「お客様は神様」という言葉もあるくらいだ。

 が、実は聞かないという選択肢もある。
 今日は、そういう話だ。

 皆さんよくご存知ヘンリー・フォード(Henry Ford)の言葉にこんなのがある。
 「(顧客に)何が欲しいかと尋ねれば、人は皆『もっと速い馬』がほしいと答えるだろう」
 (If I had asked people what they wanted, they would have said faster horses.)

 フォードは決して顧客の意見を聞く必要はないとか、聞くべきではないと言っているわけではない。
 ただ、顧客は通常、今あるものの改善を求めてくるものである。
 だから、ただ単に顧客の意見を聞くだけでは、「馬車から自動車へ」といったイノベーションは起こらない。
 たぶん、そういうことを言っているのだろう。 

 企業が革新的な新商品を出したとき、顧客はしばしば、このように言う。
 「そうそう、こういう商品が欲しかったんだ」
 えっ、そんなこといつ言いました?
 全然言ってませんよね。

 こうした実例は枚挙にいとまがない。
 欲しいんだったら最初から言ってよと思うのだが、顧客は自分の欲求について、分かっているようで分かっていない。
 商品(サービスでもいいが)を目の前に出されて、そこで初めて自分の真の欲求がなんであったかを知るのである。

 というわけであるから、イノベーションを求めるのであれば、学校は顧客の意見を聞いてはいけない。
 先生方は説明会その他で、よくアンケートを取る。
 それ自体はいい。
 それによって見えてくるものもたくさんあるからだ。

 だが、顧客は自分の欲求について、必ずしもよく分かってはいない。
 したがって、アンケートに意見や要望が書かれていたとしても、よく分かっていない人のものである。
 それを真に受け、その方向で改善を進めようとすると失敗する危険性がある。
 せっかく改善を進めても、下手をすると顧客は、「そうじゃない」などと言ったりする。
 「いや、そう書いてあってでしょう」と言っても無駄で、「そういうつもりで書いたわけではない」と返されるのがオチだ。

 では、どうする?

 冒頭の馬車と自動車の話に戻れば、顧客の真の欲求は、「もっと速く移動したい」や「もっと安全に移動したい」や「もっと楽しく移動したい」であったかもしれない。
 が、顧客はそれに気づいていないし、気づこうともしない。
 だから「もっと速い馬が欲しい」としか言わない。
 そして、それをそのまま受け取った企業側は、「もっと速い馬」の生産に走る。
 まあ、それはそれでいいのかもしれないが、イノベーションや創造にはつながらない。

 連続性を持った改善も重要だが、非連続のイノベーションも必要だ。 
 そのためには、児童生徒本人や保護者自身が気づいていない欲求を探り当てなければならない。
 「速い馬が欲しい」を「速く移動したい」に変換できる技術や感性を磨こうではないか。