最近よく聞くようになったのが「伴走型支援」というやつ。
 ついこの間も企業関係の人達と話していたら「伴走型」が話題になった。

◆伴走者とはどのような存在なのか
 伴走と聞いてすぐに思い浮かぶのが、マラソンなどでブラインドランナーを誘導する人(ガイドランナー)だ。
 先ごろ行われた東京レガシーハーフマラソンでは、東京パラ金メダルの道下美里選手が世界記録を更新したにもかかわらず、伴走者が先にゴールラインを通過したという理由で失格となった。
 この件に関しては、さまざまな意見があるが、伴走者とはどういう存在なのかを考えるには良い教材となったのではないか。

 伴走者は、ガイドすべきランナーよりも能力的に上でなければならない。
 ランナーより先にへたばってしまうようでは役に立たない。
 ランナーのいかなるスピード変化にも対応しなければならないから、同等ではダメで、圧倒的に力が上である必要がある。
 しかし、伴走者は、決してランナーを引っ張ることはしない。
 ランナーに先んじてゴールしたら反則であり、伴走者として失格なのである。

 と、ここまで書けば、勘の良い皆さんのことだから、ランナーは生徒に、伴走者は先生に置き換えらることにお気づきだろう。
 「伴走型支援」は、教育と相性が良いのである。
 主体的な学びが叫ばれている現在、「伴走型支援」ならぬ「伴走型教育」「伴走型指導」の重要性はさらに増してくるだろう。

◆キーワードは「伴走型」
 介護の世界では、かなり前から「伴走型」ということは言われていたようだ。
 厚生労働省は、今までの支援が、解決を目的とする「課題解決型」のみだったが、これからは、つながり続けることを目的とする「伴走型支援」も必要であり、両者は支援の両輪であるべきだとしている。
 また、中小企業庁は、中小企業への継続的な支援を強化するため、「伴走支援型特別保証制度」などを開始した。

 こうした流れの中で、もちろん文部科学省も黙ってはいない。
 たとえば、中教審の「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」の中でも、「(教職員は)主体的な学びを支援する伴走者としての役割を果たしている」と書いているのである。

 「主体的・対話的で深い学び」「個別最適な学び」「協働的な学び」。
 いずれも、これからの教育を語る上でのキーワードである。
 そこで、説明会などでは、これらを実現するための機能として「伴走型(支援)」を加えると、より説得力が増すのではないかと思うのである。

◆伴走者に求められるコーチング、ファシリテーションスキル
 先生方はふだんティーチングを本業とされている。
 私はコンサルティングを業務の一つとしている。
 両者に共通するのは、答えを与えることである。
 先生は生徒に、コンサルタントはクライアントに、予め分かっている答えを教える。
 そして、この方法が合理的である場面は多い。

 一方、いま先生に求められているのは、伴走者としての機能である。
 探究学習やプロジェクト型の学習においては、集団での学びを設計し、環境を整え、伴走するファシリテーションスキルが必要となるだろう。
 また、各自にとって最適で自立的な学びの機会を提供するには、自ら目標達成や課題解決に向かえるよう支援するコーチング的な関りが必要となるだろう。

 コーチングやファシリテーションスキルは、中堅、ベテランの先生であれば、特に意識せずとも経験を通じて自然に体得されている部分も多いと思う。
 私自身、これらを実際に学んでみて、「それって、自分もやって来たよな」と思う場面は多々あった。
 が、ものごとはやはり体系的に学ぶ必要がある。
 理論的、科学的なバックボーンも必要だ。
 それを知れば、さらに自信が深まるだろう。
 二度と教壇に立つことのない私にとっては無用の長物だが、現役続行中の皆さんには、これらを研究テーマの一つに加えることをお勧めしたい。