東京都の高校授業料無償化についてお勉強。
 この分野、あまり得意とは言えない私は、せっせと勉強しないと時代について行けない。

 今回の政策、小池百合子都知事の選挙対策という声も聞かれる。
 なるほど。
 来年7月に東京都知事選挙が行われるから、それを前にしたバラマキ政策の面もありそうだ。
 ただ、こうした手法は何も小池都知事の専売特許というわけではない。
 外交、防衛などは票につながらないので、直接家計に関係すること、つまり金に関わる政策で支持を集めようということだ。

◆授業料無償化の意味
 ところで、先に進む前に用語の定義を確認しておかなければならない。
 まあ定義と言うほど厳密ではないが、言葉の使い分けだ。

 今回、「授業料無償化」と言われているが、より大きな概念として「学費」というものがある。
 「授業料」は一般に「学費」と呼ばれるものの一部だ。
 さらに言えば、その上に「教育費」という概念があると思うが、今回そこは触れない。
 「授業料」は「学費」の一部だが、その割合はかなり大きく主要部分と言っていい。

 「学費」を構成するその他の費用は、「入学金」「施設費」「その他経費」である。
 「受験料(検定料)」などを含むこともあるようだ。
 いずれにしても、その他の費用が「授業料」を上回ることはない。

 「授業料」だけを無償化しても、という声もあるだろうが、「学費」の主要部分であるから、まずここに手を付けるのは考え方として間違っていないだろう。

◆公私の差は自己負担額の差
 私立は高い「授業料」を取っているいるのだから、それに見合った教育や環境整備を行うべきだ。
 ごもっとも。
 言われなくても私立の皆さん、その方向で努力されている。

 しかし、この考え方の裏返しは、公立は安い「授業料」だから、それ相応の教育や環境であっても仕方ないとなりかねない。
 はたしてそうか。
 公立高校の「授業料」は、全国的に、ほぼ月額1万、年間12万円ほどだ。
 だが、一人年間12万円(=月1万円)では、とてもではないが教職員の給料など払えず、施設の維持管理もできない。
 一人の生徒を1年間教育するためには、一人当たりあと100万円は必要なのだ。
 で、もちろんこの費用は公費負担、つまり分かりやすく言えば税金で賄われているのだ。

 つまり、公立の「授業料」が安いというのは、自己負担割合が少ないというだけである。
 決して安上がりということはなく、十分に金をかけた教育が行われている。

◆私立も公教育
 私立の「学費」及び「授業料」が高いのは、別に金儲けに走っているからではなく、公費負担分が公立より少なく、自己負担分が多いからである。
 生徒一人を1年間教育するためにかかる費用は、公立も私立も、それほど大きくは変わるものではない。

 助成金その他の名目で私立に公費が投じられるのはおかしいではないかという声も聞かれる。

 だが、わが国では「私立学校の有する公の性質及び学校教育において果たす重要な役割にかんがみ、国及び地方公共団体は、その自主性を尊重しつつ、助成その他の適当な方法によって私立学校教育の振興に努めなければならない」と考えられている。
 これは教育基本法第8条である。

 つまりこれは、国公立と私立が一緒になって国民の教育を受ける権利を保障しようという考え方である。
 私立は広義の公教育の一翼を担う存在である。

 もしこの考え方が気に入らないというなら、憲法・教育基本法から変えて行かなければならないだろう。
 そしてさらに、東京都で言うなら、全都民受け入れ可能な数の都立高校を作り、教職員を雇用しなければならないだろう。
 その上で、私立に通いたければ全額自己負担せよと言わなければならない。
 私立高校の数が都立高校より多い東京都で、そんなことができるのか。

◆あくまでも「無償化」
 今回の東京都の施策のポイントは、所得制限の撤廃である。
 これにより都民である高校生が都立高校に通う場合、家庭(世帯)の経済事情に関係なく全員「授業料」は無償である。
 すでに無償であった家庭(世帯)も多いが、それが拡大されるということだ。

 では、私立高校に通う場合はどうか。
 私立高校の「授業料」はピンキリで、上は100万円超から下は40万円以下までさまざまだ。
 平均すると令和4年度実績で約48万円(474.987円)だ。
 で、都が負担するのはここまでだ。
 80万、90万、場合によっては100万円以上かかる学校の全額を負担しようというのではない。
 平均約48万円との差額は自己負担である。
 そうじゃないと、年間200万だ300万だという学校が現れた時、それを全額負担しなければならない。

◆影響は意外に少ない?
 この施策によって、都立離れが加速するのか、それとも都立回帰が起きるのか。
 この点については少し時間をかけて考える必要があるので、今回は深入りしないが、少なくとも都立回帰はないだろう。 

 東京の場合、すでに私立高校の数が多い。
 しかも中高一貫校が多い。
 という全国的に見て特殊な地域であるから、その点も含め考えなくてはならないだろう。

 年収1000万超の世帯であっても、子供1人ならまだしも2人以上を私立に通わせるのは大きな負担だ。
 そういう家庭(世帯)にとっては、私立を選択肢に含めやすくなったとは言える。
 だが、高校からの入学の無い完全中高一貫校が増えている現状では、一気に私立高校志向が高まるとも思えない。
 その意味で、入試市場への影響は意外に少ないのではないか。

 東京の施策がいきなり全国に波及することはないが、共に一つの大きな市場を形成する首都圏三県への影響はありそうだ。
 わが埼玉県も所得制限撤廃に向かうのかどうかが注目される。

 以上、本日のにわか勉強の結果である。

 そうそう忘れていた。
 この資料を見ると、都内私立の学費事情が分かりやすい。
 まだの方には一読をお勧めする。
 東京都庁ホームページである。

 令和4年度 都内私立高等学校(全日制)の学費の状況