よみうり進学メディア埼玉版「これが高校の授業だ」の取材、第二弾は狭山ヶ丘高校。校名は狭山ヶ丘だが、住所は狭山市ではなく入間市。
◆緊張感の中で鍛える「考える力」
昨年は女子バレーボール部が県大会で初優勝し、インターハイに出場した狭山ヶ丘高校。
今年は「文」の特集として、Ⅱ類特別進学コース・3年生の数学Ⅲの授業を取材した。
理系進学を目指す生徒が集まるこのクラスでは、すでに教科書の内容は3年1学期前半で終えており、現在は週5時間すべてが大学受験に向けた問題演習に充てられている。
授業は前半25分が演習時間。生徒たちは黙々と問題に取り組み、先生は机間巡視をしながら進み具合を確認するだけ。生徒からの質問はない。これは「初見の問題に自分の力でどこまで挑めるか」を重視しているからだ。緊張感を保ち、集中して問題に向き合う姿勢がこのクラスの特徴だ。
◆先生も生徒も、互いに成長する場
担当の中角元(なかずみ・げん)先生は教員12年目。
中学生の頃に教師を志したが、教科については考えていなかった。大学に進むにあたり、得意な英語にするか、やや不得意な数学にするかで迷った。普通、ここは悩むところではないと思うが、中角先生は、「得意な教科だと、できない生徒の気持ちが分からなくなるかもしれない」との思いから、あえて数学を選び、慶應義塾大学理工学部数学科へ進学した。
授業終了後、陸上部で関東大会にも出場したという女子生徒に話を聞くと、「中角先生は数学があまり得意じゃなかったらしく、苦手な生徒の気持ちをよく分かってくれる」と語ってくれた。文武両道を体現し進学面でも高い目標を掲げる彼女の言葉には説得力がある。
授業の終盤、先生が計算ミスにより答えを導けない場面があった。途中のどこかで計算を誤っているのだが、その場所が特定できない。先生は何度も計算をやり直している。
さて、その時の生徒たちの行動だが、ただ待つのではなく、自分たちでも検証を始める。そして、しばらくすると、ある男子生徒が「ここが違ってます」と原因を発見。先生が解法を説明する一方通行にも見える授業だが、実は先生と生徒が互いに学び合う、双方向の空間がそこにはあった。
◆数学は表現力だ
授業後のインタビューで、数学を通じて身につけて欲しい力は何かと尋ねた。
中角先生は、数学を通じて身につけて欲しいのは表現力だと言う。
計算力とか判断力とか直観力という答えを予想したが、やや意外だった。
たとえば、大学入試においても、自分がどうやって答えを導いたかを、数字と文字をバランスよく使いながら解答用紙に表現し、相手(採点者)に伝える。その力がないと試験に合格しない、と先生は言う。
「文転」という俗語がある。理系志望から文系志望に変えることを言うが、その伝で言えば先生は、いわば「理転」の人だ。元々、文系のセンスがあった。だから、「(数学には)国語と通じるものがありますね」と、数学者らしからぬ言葉が出てくるのだろう。

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