来年本を出そうと計画している人に会った。
 「先日、出版社の方とお会いしたんですが、本の中身の話より書名(タイトル)をどうするかを気にしていました。あとは目次の小見出しはどんなものが考えられるかと言われました。これが普通なんですか」

 そうでしたか。はい、分かります。元出版社員としてはよく分かる。
 本のジャンルにもよるのだが、ビジネス系や自己啓発系、ハウツー系とかだったら、おそらく売れ行きの7割ぐらいは書名(タイトル)次第ではないか。
 そして、後の2割は営業・販売力。
 で、残りの1割が中身。
 これから本を出そうという人には、何とも拍子抜けで、一気にモチベーションダウンしてしまいそうな話だが、そうなのだ。

 出版流通に乗せるにはまず取次会社(トーハン、日販)に仕入れてもらわなければならない。
 その際、取次会社がどこを見ているかというと、書名(タイトル)と装丁と価格。
 本の中身は?
 見てない。
 読んでない。
 毎日100冊以上(当時)新刊が出されるから、一冊一冊中身を読んでいる暇などない。
 まずこの段階で、中身より書名(タイトル)となる。

 本は取次店から全国の書店に配本される。
 書店側から注文することもあるが、新刊本などは取次会社から勝手に送られてくることが多い。
 書店側はそれらを店頭に並べる。
 大きな書店だとジャンルごとに担当者が決まっている。
 担当者は売れそうな本ほど目立つ場所に置く。
 できるだけ多く置く。
 書店商売は一平米あたりいくら売り上げるかが勝負だ。

 ではその際、担当者はいちいち中身を読んで並べ方を決めるか。
 そんな暇はない。
 毎日おびただしい数の新刊本が届くのだ。
 書名(タイトル)と装丁と価格で決める。
 あとは長年の勘だ。
 というわけで、ここでも中身より書名(タイトル)となる。

 まあ、近年はAmazonなどネット販売も増えてきたが、それとてお客は中身を吟味して選ぶことはできないので、頼りは書名(タイトル)と装丁と価格。後はせいぜい目次。
 なんか身も蓋もないね。
 でも、「おやっ」「これは」と思って手にしてもらわない限り売れることはないのだ。
 中身が良いから売れるという世界ではないのだ。
 だから出版社は中身以上に書名(タイトル)にこだわる。
 詳細や例外を省き、かなり大ざっぱな表現をしたが、これが出版社員として経験してきたことだ。

 その後独立し会社を持った私が真っ先に手がけたのが学校パンフレット企画制作だが、当然ながら表紙にこだわった。
 とりあえず手に取ってもらわなければ先に進まないではないか。
 今は、さまざまな広告宣伝手段があり、パンフレットの役割も変化しているが、手に取ってもらわない限りいかなる役割も果たせないという本質は変わらない。
 中身の話はそれからだ。

 出版の話から最後は学校広報の話になった。