来週、埼玉県教育委員会から第1回進路希望状況調査(10月1日現在)の結果が発表される見込みだ。
 今年は例年以上に注目されることになるだろう。
 というのも、令和9年度入試では、全日制公立高校40校で合計1600人という大規模な募集減が実施されるからだ。

 これだけ募集人員が減ると、倍率が上がり、入試が厳しくなるのではないかと心配する受験生・保護者もいる。
 個々に見ればそういう学校もあるだろうが、全体としては倍率も上がらないし、入試が厳しくなることもない。前年度(令和8年度入試)も12校が募集減を実施したが、公立全体の倍率は下がっている。まあ、このあたりは塾の先生方がご専門なので、ここでその話に深入りしない。
 このブログは基本先生向けである。

◆募集人員減による倍率上昇は何を意味するか
 公立高校関係者の中には、募集人員減によって定員割れを回避できるのではないか、あるいは低迷から脱することができるのではないかと期待する向きもあるようだ。

 仮に、昨年240人募集の高校に235人の志願者があったとしよう。
 倍率は0.98倍。
 わずか5人ではあるが定員割れだ。
 今年、この学校が1学級減となり、募集人員が200人になった。
 仮に昨年と同じ235人が志願すれば、倍率は1.18倍となる。
 これなら定員割れの心配はない。

 が、ちょっと待ってほしい。
 昨年と同じ235人が志願するという根拠はどこにあるのだ。
 令和9年度の中学校等卒業予定者数は、前年度より1704人、率にして2.74%減少する見込みだ。
 さらに、私立高校授業料無償化の影響や通信制高校への進学希望者の増加などにより、公立全日制を希望する生徒の割合そのものが低下する可能性もある。さらに言えば、公立入試改革も公立希望者を減らす方向に作用すると見ておいたほうがいい。

 だから、仮に、この学校の志願者が195人まで減ってしまえば、200人募集でも定員割れとなる。
 募集人員を40人減らしたからといって、定員割れを回避できるとは限らないのである。

◆倍率上昇イコール人気回復ではない
 では、志願者が220人だったらどうか。
 200人募集になったから倍率は1.10倍。定員割れは回避できた。
 昨年は240人募集で志願者235人、倍率0.98倍。今年は200人募集で220人志願、倍率1.10倍。
 倍率だけ見れば、確かに改善している。
 しかし、志願者実人数は235人から220人へ、15人減少している。

 さて、この結果をもって、学校の人気が高まった、募集活動が成功したと喜んでよいのだろうか。
 もちろん、定員割れを回避できたことは目出度い。
 しかし、志願者が増えたわけではない。むしろ減っている。
 倍率が上がったことと、学校が選ばれるようになったことは、別の話なのである。

◆販売目標を下げて目標達成
 これを企業活動に例えるとどういうことになるか。

 ある企業が240個の商品を販売する計画を立てたが、実際には235個しか売れなかった。
 目標未達だ。
 で、翌年、販売目標を200個に引き下げた。
 結果は220個。目標達成率110%である。
 営業担当者は面目を保ったかもしれないが、経営的にはこれでいいのか。
 「よくやった。目標達成だ」と手放しで喜んでいいのだろうか。
 それよりも、前年より15個売上が減っていることを問題にするはずだ。
 
 販売目標を下げたことで目標を達成できたとしても、商品そのものの魅力が高まったわけでも、販売力が向上したわけでもないからだ。
 もちろん需要に合わせて生産量や販売目標を調整すること自体は、経営として合理的である。
 問題なのは、目標達成と販売力向上を混同することである。

 高校の募集減についても同じようなことが言えるだろう。

◆募集減は問題解決にならない
 誤解のないように言っておくが、募集減そのものを否定しているわけではない。
 少子化が進む中、学校規模を適正化することは必要だ。生徒数に応じて学級数や教員配置を見直すことにも合理性がある。

 ただし、募集人員を減らして定員割れを回避できたとしても、それですべての問題が解決したわけではない。
 少子化は来年も再来年も、この先何十年も続く。

 今年は40人減らして定員割れを回避できたとして、翌年さらに志願者が減ったらどうするのか。
 また40人減らすのか。
 240人が200人になり、200人が160人になり、さらに120人になる。
 こうした縮小が続けば、いずれ学校としての適正規模を維持することさえ難しくなる。

 だから、募集減によって一息つくことができた学校は、その時間を有効に使ってほしいのである。
 なぜ志願者が減っているのか。
 学校の魅力が十分に伝わっていないのか。それとも、教育内容や学校生活そのものに改善すべき点があるのか。
 それを考え、次の行動につなげる必要がある。

◆倍率よりも実人数の推移を
 来週の調査結果が発表されれば、例によって学校別の希望倍率が話題になるだろう。
 募集減となった40校の中には、昨年より倍率が上昇する学校も少なくないと思われる。

 ただ、学校関係者には倍率だけでなく、ぜひ希望者実人数を見てもらいたい。
 できれば単年度だけでなく、過去3年、5年とさかのぼって比較したい。
 倍率は入試の競争状況を表す重要な指標である。
 しかし、学校広報や生徒募集の成果を判断するには、それだけでは不十分だ。

 募集人員を減らすことで倍率を上げることはできる。
 しかし、それによって学校の魅力が高まるわけではない。
 定員割れの回避と、選ばれる学校になることは別の話である。
 募集減によって定員割れを回避できた時こそ、定員割れの原因を考える好機なのかもしれない。