短めに報恩の話である。受けた恩をどう返すか。実はこの話、過去に少なくとも二度は書いている。
 「感謝はすぐにできるが、恩返しには時間がかかる」(2018年4月24日・旧ブログ)
 「『かけた情けを水に流す』を実践するために必要なものは」(2018年8月24日・旧ブログ)

 お時間のある方には是非お読みいただきたいが、要約すると、恩は受けたその人に返すだけでなく、自分が受けたのと同じことを他の人にしてあげることであるという話である。また、人が恩を感じるようなことをしてあげるためには相応の実力を持たなければならず、それは非常に難しいことだという話である。

 20年以上前のことだ。
 自前の会社を作ったものの大した仕事もなかった。そんなある日、埼玉県私立中高協会から電話が入った。淑徳与野高校の校長を辞し、協会内の教育研究所所長となっていた川端幹雄先生からだった。
 先生「研究所の川端という者だが、ご存知か」
 「よく承知しております」
 先生「いま私の手元に学校5日制について述べた文章があるが、これはあなたが書いたものに間違いないか」
 「間違いありません」
 先生「一度会って話をしたいが、時間は取れるか」
 「いつでも。何なら今すぐ、たぶん15分もあればお伺いできます」
 先生「ではお待ちしている」

 仕事のなかった私は、何とか私立学校とのつながりを作ろうと、手作りの情報紙みたいなものを配り歩いていた。それが何らかのルートで先生の目に触れたのだろう。
 チャンスだとは思ったが、経験も知識も圧倒的に少ない私は先生の話を聞く一方だった。
 時折、「どう思う」と意見を求められたのは覚えているが、どう答えたか記憶にない。 
 最後に先生がポツリと一言、「温泉に行くのが好きでね」と言われた。
 私は「機会があれば是非ご一緒させてください」と言った。当然の対応だ。

 ところが、驚いたことに先生は、手帳を広げ「来月なら、何日と何日なら空いているんだが」と言われた。
 エッ、なによ、この展開?
 というわけで、初対面から数週間後、私は先生と温泉旅行に出かけた。

 以後、何度も伺いご指導いただいた。
 毎年さいたまスーパーアリーナで行われている公私合同フェア(彩の国進学フェア)は、先生の全面的なバックアップがなければ絶対に実現できなかっただろう。
 いろいろな方を紹介してもらった。佐藤栄学園の佐藤栄太郎理事長(故人)にも、「何かあったらこの男使ってやってよ」と紹介してくれた。で、佐藤栄太郎先生は本当に使ってくれた。

 今までいろんな先輩方から世話になった。恩を受けた。
 何とかこの業界で生きながらえているのも諸先生方のおかげだ。

 だが、私は恥ずかしながら受けた恩を返せていない。
 あと何年あるか分からないが、残された人生の課題だ。
 今日で69歳。