今日は書こうと思っていたテーマがあったが、急きょ変更して昨日の続きを書くことにした。その理由は昨日の記事に対するコメントにある。
 読者の皆さんは是非、昨日の記事「結局私立はいくらかかるの? にどう答えるか」及び読者コメントに目を通した後、お読みいただきたい。

◆安く見せたい私立側の心理
 保護者世代は「私立は高いもの」と思っているし、実際そうだった。
 よって、私立側としては、そういう思い込みや固定観念、もっと言えば偏見を取り除かなければならないから、安さを殊更アピールしようとする。
 嘘は言わないが見た目の印象を良くするという進学実績の見せ方と一緒だ。
 わざわざ高いと思われるような見せ方書き方をするわけがないから、これは今後も続くだろう。

◆国や地方行政の政策アピール
 自己アピールをしたいのは国や地方行政も一緒だ。
 教育無償化を実現しましたというのは、行政を動かす政治家にとって、来るべき選挙に向けて大きなアピールポイントになる。
 そこで、動機は異なるが、結果としては国や行政も安くなったこと、あるいは無償化を強調することになる。
 これも今後続くだろう。

◆事実を正確に伝える役割は誰が担うか
 いっそ嘘なら話は早い。だが、嘘ではないが無条件に事実と受け止めるのは拙速に過ぎる。
 そういうことは世の中にいくらでもある。
 そこに光を当てる。
 早とちりしてはいけませんよ。冷静に見ていきましょうね。
 ということを、きっちりデータと共に示す。

 まあそこが、私立側でも行政側でもない第三者の仕事だろう。
 コメント投稿者様も、ぜひお力を貸していただければと思う。

◆実態は条件付き無償化である
 国が行っているのは高等学校等就学支援金という制度である。
 分かりやすく「国の支援金」と覚えておこう。私はそうしている。 
 
 国は実質無償化という言い方をしているが、実態は「条件付き無償化」である。
 皆さんご承知のとおり、支給には所得制限がかけられている。また、平均授業料を基準としているため、授業料が平均以上であれば自己負担が発生する。
 この二点をもってすれば、完全無償化などではなく「条件付き無償化」なのだと分かるが、それでは聞こえが悪いので、頭の良い霞が関官僚が、よく分からない実質無償化という言葉をひねり出したのであろう。

 国の支援金についてはコチラにまとめられている。
 2020年4月からの「私立高等学校授業料実質無償化」のリーフレット

 とは言え、これまでの公立授業料無償化から、私立授業料も含めた無償化の方向に舵を切ったのは大きな前進で、今までより私立を選びやすくなったのは事実だろう。
 ただし、所得が一定のラインを超えると対象外となる。また、授業料の高い私立を選ぶと自己負担が発生する場合がある
 さらに、国の支援金は授業料を対象とするものであり、入学金・施設費などへの支援はない。といった課題が残されている。

 参考までに埼玉県総務部学事課がまとめた高校ごとの費用一覧がコチラにある。
 令和2年度私立高等学校初年度納付金の状況

◆国の支援金に県の補助金を上乗せ
 埼玉県は県独自の施策として、「埼玉県父母負担軽減事業補助金」の制度を設けている。
 分かりやすく「県の補助金」と覚えておこう。
 これにより、各家庭は「国の支援金」と「県の補助金」をダブルで受けられる可能性がある。
 ここで可能性と言ったのは、これにも所得制限があるからだ。

 また、国の支援金にはない、入学金と施設費への補助があるのも特徴的だ。
 所得制限があるものの、入学金には10万円、施設費には20万円(全額のケースもあり)の補助があり、それぞれの半額ぐらいまではカバーできそうだ。
 ただし、ここが一番のポイントなのだが、条件は所得だけでなく、「埼玉県在住、県内私立入学(在学)」という条件が付加されている
 つまり、県外私立に入学した人にはまったく関係ない制度ということだ。

◆私立はやっぱりお金がかかる
 冒頭述べたように、保護者世代に比べれば私立を選びやすくなった。
 当時はなかった国の支援金と県の補助金が出るようになったからだ。

 ただ、現在言われている実質無償化は、実態としては条件付き無償化である。
 支援金・補助金共に、所得条件付きであり、高額所得(実際は課税所得で計算されるが)家庭ほど支援・補助を受けられない可能性が高い。

 県の補助金を上乗せとあるが、県外私立入学者は恩恵に預かれない。

 というわけで完全な無償化にはまだまだ時間がかかりそうだが、私たちとしては、これら施策が後退しないように、むしろさらに前進するように世論を盛り上げて行かなくてはなるまい。

 最後に私のかねてからの考え方を述べておくが、私立は学費の安さで勝負すべきではない。
 もちろん、私立と言えども広義の公教育の一端を担う存在であるから、そこに税が投入されることに何の問題もないし、むしろそうあるべきだ。
 私立には1円たりとも税を投入してはならないというのであれば、希望者全員の需要がまかなえる公立学校を供給しなければならない。
 統廃合で公立を減らそうとしている時代にそんなことができるのか。

 私立は支援金・補助金を得ても、まだ公立より高い。
 それでいい。
 付加価値の高い教育をめざせば、相応の費用が発生するのは自明だ。
 募集政策上、安さや無料をアピールするのは結構だが、求められているのはそれだけではないだろう。