果たしてこれは目出度いことなのか。今日で70歳となった。これでまた一歩、あの世に近づいた。
じじい早く消え失せろという声もあるが、大丈夫、時は間違いなく、そして間もなくやって来る。
私は映像関係の仕事もやっているわけだが、業界の技術用語に「フェードアウト(fadeout)」というのがある。
映像や音が徐々に消えることだ。
今は誰もが映像を作る時代なので、フェードイン、フェードアウトも一般化してきた。
私は今、仕事の上で、このフェードアウトを実践しようとしている。
少しずつ消えて行く作戦。
私の父親は80歳で亡くなった。
昭和の時代によくいた仕事一筋の人間だった。
70歳を過ぎても勤め人をやっていたが、75歳を過ぎたあたりで、さすがにもういいだろうと仕事を辞めさせた。
そして、程なくしてボケが始まった。
今さら言ってもだが、本人が辞めると言うまでやらせておけば良かった。
そうすれば、もしかしたらボケずに人生を全うできたかもしれない。
もちろん、これは仮定の話だから実際にどうなったかは分からない。
その時以来、自分は最後まで仕事を続けると決めた。
ただし、少しずつ減らして行く。
少しずつだから周りもほとんど気づかない。
本人さえ気づかない。
だが、確実に仕事は減っていて、存在感も希薄になって行く。
「そう言えば、最近見ないね」
「いや、たしか3年くらい前に亡くなったらしいよ」
ね。これがフェードアウト。
てなことを言うと、大丈夫か、どこか悪いんじゃないか。
頼んでる仕事ちゃんとやってくれるんだろうかと心配する人がいるかもしれない。
大丈夫、そこは心配要らない。
土日も原稿書きまくった。
合間に10キロ走った。
仕事に穴は開けないから安心してくれ。
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