今年の大学入試共通テストは、何だかいろんな事が起こるね。
 東大構内での刺傷事件。
 平均点過去最低の科目続出。
 問題流失(又はカンニング疑惑)事件。

 ただ、平均点が低かったのは事件とは言えないし、他の二つもほとんどの受験生にとって直接の影響はないから、マスコミが大騒ぎしなければ、平穏無事だったのかもしれない。

◆公立高校での試験監督
 学校社会ではカンニングという言葉は用いられず、たしか「不正行為」と言っていたと思う。
 たぶん、今でもそうだろう。
 私の経験の中では、「不正行為」というのは一度もなかった。
 見つけられなかっただけだろうと言われればそれまでだが、おそらく実際にもなかったと信じたい。

 学力検査前日には、教室内の掲示物をすべてはずす。
 黒板もきれいにふき取り、文字の痕跡を残さない。
 生徒には掃除の際、机や椅子の落書きを全部消すように指示し、それだけでは不安なので、生徒が下校した後、全教室の全机・全椅子をチェックする。
 私のいた学校の生徒は、私物と公共物を混同するようなことはなかったので、その点は楽だった。
 それでも、時には机に「後輩たち、頑張れ」などと、わざわざ目立つように書いて、先生の仕事を増やしてくれるやつもいた。

 試験監督は二人一組で行う。
 問題用紙は、授業中のプリントではないから「後ろに回して」というわけにはいかない。
 一人一人の机上に、手分けして置いて行く。
 配りながら、余計なものが机上に置かれていないかもチェックする。
 受験票、鉛筆、消しゴム、数学の時間はコンパス。
 今はどうか知らないが、バック等は室内には持ち込ませず、廊下に置かせる。
 
 開始前(特に1時間目)、緊張の極致にある受験生をリラックスさせてやりたいし、頑張れと言ってやりたいが、そのような私語は禁じられている。
 「始めてください」、「あと10分です」、「あと5分です」などとマニュアルに定められた言葉以外は発してはいけない。

 立ち位置はそれほど細かく規定されていないが、一人は教室前方、もう一人は教室後方に位置することになっている。
 つい普段のクセで机間巡視したくなるが、それもしないようにと言われている。
 「そのせいで集中できなかった」などと、後でクレームがつく恐れがあるからだろう。

 受験生にとっては、あっという間の50分だろうが、ただじっと待っている50分は結構長い。
 当たり前のことだが、本を読んだり音楽を聴いたりなど許されるはずがない。
 ひたすら受験生の様子を観察する。
 不正行為というのは、正直あまり頭にない。
 基本そんな真似はしないだろうという性善説に立つ。
 落ち着きがないとか、気分が悪そうに見えるなどは、次の時間の監督者に申し送る。

 これも今はどうなっているか分からないが、試験時間が終わったら、いったん受験生を外に出し、一枚一枚答案用紙を回収する。
 そして、その場で枚数をチェックした後、実施本部に戻る。

 なにせ30年も前の話だから、今とは違っているとは思うが、だいたいこのような感じだ。
 ふだんはごめんで済まされることも、入試では許されないので、先生は先生で緊張するものである。

 今回起きた問題流出事件を受けて、大学入試センターは未然防止に努めるよう各大学に文書を送った。
 また、文部科学省も、個別入試でも不正行為を防ぐため、所持品確認や試験室内の巡視などに努めるよう各大学に依頼した。
 ただいまの状況では、そういわざるを得ないだろう。

 だが、ほぼすべての受験生は不正行為を働こうなどとは微塵も思っていないのである。
 しかし、不正行為を見逃せば、結局のところ、そういう真面目な受験生が不利益を被る。

 未然防止策の強化は、する方もされる方も、決して気分の良いものではないが、現状を考えるとある程度やむを得ないだろう。