受験生・保護者からの質問。
 「大宮高校希望です。どちらかと言えば理数科ですが、普通科でもいいです。その場合、理数科を第一志望にして普通科を第二志望するのと、普通科を第一志望にするのとでは、どちらが有利ですか?」

 この手の話は、塾の先生方が専門とするところである。
 私は実地に指導する立場にないので、よく分からん。
 が、質問された以上、何かしら答えなければならない。
 自身の勉強のつもりで、いろいろ調べ、考えてみよう。

◆理数科不合格者の普通科合格確率は50%
 同一校に複数の学科がある場合、「相互に第二志望を認める」というルールを設けていることが多い。
 大宮高校もそれに当てはまる。
 「相互に」であるから、理数科志望者が普通科を第二志望とすることもできるし、普通科志望者が理数科を第二志望とすることもできる。
 が、これはあくまでもルール上の話であり、現実には「理数科×→普通科○」はあっても「普通科×→理数科○」は起こらない。

 では、大宮高校において「理数科×→普通科○」というケースがどれだけあったか。
 昨年度(令和3年度入試)、理数科志願者は91人だった。
 合格者40人、不合格者51人。
 仮に不合格者全員が第二志望に普通科を書いていたとする。
 普通科の第二志望合格者は26人と推定されるので、合格確率は(26÷51=0.5098)で、約51%となる。
 理数科不合格者全員が、普通科で救われる(拾われる)わけではないことが分かる。

◆なぜ半分しか普通科で救われなかったのか。
 第一に考えられるのは、配点のしくみの違いである。
 理数科では数学と理科の得点を2倍する傾斜配点が行われている。
 (国語100、英語100、社会100、数学200、理科200、計700)
 数学や理科を得意とする受験生に有利な仕組みだ。

 しかし、第二志望で普通科の選抜に回ってきた場合は均等配点になるので、数学と理科が得意という有利さは失われる。
 仮に英語がやや不得意という弱点があったとしても、理数科の選抜では得意の数学・理科でカバーすることができた。
 しかし、普通科の選抜に回ってきた場合、弱点を補うものがなくなる。
 理数科では「スペシャリスト(一点突破型)」でも何とか戦えたが、オールラウンダー(全教科型)の多い普通科では苦戦を強いられる可能性が高いということか。

 第二に考えられるのは、選抜方法である。
 大宮高校の場合、選抜は二段階で行われる。
 第一次選抜で合格者の60%、第二次選抜で合格者の40%を決める。
 人数で言うと、定員が320人だから、第一次選抜合格が192人、第二次選抜合格が128人。
 (第一次と第二次では選抜基準が異なるが、今回は触れない)

 第二次選抜に回ってきたのは志願者470人から第一選抜合格者192人を引いた278人だ。
 残る合格枠は128人。なかなか厳しい戦いだ。
 で、ここに理数科志願者で普通科を第二志望とした者が参入してくる。
 (このあたり理解が不十分な人もいるようだが、第二志望の者が参戦できるのは第二次選抜からである

 そうすると、昨年の第二次選抜の場合、元々普通科である278人に理数科不合格だった51人を加えた329人で残り枠128人を争う形になったと推定される。
 理数科の戦いも厳しいものであるが、普通科もそれに劣らず厳しい。
 理数科を志望し普通科を第二志望とした場合、チャンスが2倍に増えそうだが、第二次選抜からの参戦ということを考えると、せいぜい1.5倍というあたりが正しい認識ではないかと思う。
 それに加え、前述したように理数科選抜では武器になり得たものが普通科選抜では必ずしも生きない可能性もあるし、弱点が増幅されてしまうかもしれない。
 
 したがって、何となくチャンスが多そうだからという理由で理数科第一志望、普通科第二志望とするのは必ずしも得策とは言えない。
 もし普通科でもいいというのであれば、理数科経由普通科とするより、普通科直通の方が良い場合もある
 辛うじて私が考えられるのはここまでで、あとは、オールラウンダータイプなのかスペシャリストタイプなのか、調査書先行タイプなのか学力検査先行タイプなのかなど、個々の受験生の特性次第ということになるので、最終的にはその道のプロである塾や学校の先生に頼るしかない。
 
◆普通科でも理系に強い大宮高校
 大宮高校理数科が優れた進学実績を残しているのは誰も知るところだ。
 だが、大宮高校ほどのレベルになれば、普通科もそれに勝るとも劣らない実績を残しているはずだ。
 そのあたりを調べてみよう。
 ついでにその裏付けともなる教育課程についても。

 同校ホームページによれば昨春の大学合格実績は次のとおりである。
 大宮高校大学合格者数
 大宮高校理数科大学合格者数
 たとえば東京大学現役合格。
 令和3年3月は学校全体で12人だった。
 このうち5人は理数科だ。
 1クラス40人のうち5人が東大現役(たぶん理Ⅰか理Ⅱ)とは凄い。

 クラスの雰囲気は一体どんな感じなんだろう。
 学校で1人や2人だと「アイツは出来る!」と皆が認めるが、大勢だと「まあ出来るんじゃない」という程度で逆に目立たないかもしれない。

 理系進学の指標として便利なのが東京工業大学だ。
 他の大学は文系学部合格なのか理系学部合格なのか分からないが、ここは純粋理系だ。
 令和3年3月は学校全体で13人だった。
 このうち理数科は5人だった。
 ということは、他の8人は普通科ということになる。
 普通科でも理系難関大学進学は実現できているということだ。
 県下トップレベルの生徒が集まっているのだから当然と言えば当然だが、理数科のインパクトが強いので、見過ごされがちだ。

◆理数科と普通科理系の違い
 理数科と普通科理系の教育課程上の違いを見てみた。
 同校HPにパンフレットPDF版が掲載されているので、そこで見てみよう。
 3ページ目の「教育課程」。
 大宮高校学校案内パンフレット

 1年次はあまり大きな違いはない。
 これは同校に限った話ではなく、どの学校どの学科にあっても、高校卒業に必要な必修科目の関係で1年次の教育課程は似たようなものになっている。

 2年次以降はその学校、その学科の特徴がより強く出てくる。
 大宮高校2年生の場合を見てみよう。
 左側太字が理数科、右側が普通科理系選択者だ。
 数字は単位数。
 【理数】  【普通】
 国語5    国語5
 英語6    英語6
 地理総合2  地理総合2
 体育2    体育2
 保健1    保健1
 理系数学7  数学6
 理系物理4  物理基礎4
 理系化学2  化学基礎3
 理系生物2  生物基礎1
 理系探究2
        芸術2
        総合探究1
 
 以上のとおりで、国語・英語・地歴(地理)・保体までは単位数は同じである。
 理数科の方が数学が1単位、理科が2単位多い。
 普通科にはある「芸術」と「総合的な探究の時間」が理数科にはない。

 これを見て分かるのは、各教科・科目の中身は異なるにしても理系大学進学に必要な教科・科目は普通科理系選択でも十分満たしているということだ。
 将来的に理系大学進学を目指すのであれば、理数科一択ということはなく、普通科に入り2年次、3年次で理系選択をするという道もあると思う。
 高校入試における有利不利の話もさることながら、このことも質問者に答えておこうと思った。