部活動をめぐるニュース2題。
まずは、こちら。
「“部活動の強制加入 撤廃を” 若者の団体がスポーツ庁に要望」(3月9日 NHK)
高校生や大学生などでつくる「日本若者会議」が、スポーツ庁に対し、部活動への強制加入撤廃を求める要望書を提出した。
この中で、国の抽出調査(2017年度)による公立中学校の30%、公立高校の15%で部活動が強制されているとして、これを撤廃するとともに、参加しないことで受験に不利にならないことを生徒・保護者に周知するように求めている。
次に、こちら。
「全中、部活以外のチームも参加可能に プロユースや民間クラブに門戸」(3月10日 朝日新聞デジタル)
以下、記事引用だが。
「日本中学校体育連盟(中体連)は2023年度から全国中学校体育大会(全中)について、学校単位だけでなく、民間のクラブや団体としても出場できるよう、参加要件を緩和する方針を決めた。4日の理事会で承認され、9日に各都道府県に通知された。スポーツ庁が少子化や教員の負担軽減への対策から、部活動を総合型スポーツクラブなどへ移行すべく議論している中で、中体連は要件の緩和を求められていた」
さて。
まず第一のニュースだが、これは「日本若者会議」がタイミングをはかって話題作りを狙ったものだろう。
部活全員加入は個々の学校の教育方針であるから、スポーツ庁が直接「強制加入撤廃」を強制することはできない。
学校に指示したり指導したりできるのは都道府県教委や市町村教委であるから、スポーツ庁に要望書を出したところで、どうなるものでもない。
ただ、この程度の話をマスコミがこぞって取り上げるところを見ると、何か裏がありそうだ。
第二のニュースだが、これは既定路線である。
スポーツ庁による「運動部活動改革」の方針はすでに定まっている。
平成30年3月に「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が示されており、この中に、地域スポーツクラブの参加など大会のあり方について速やかに見直しを行うようにとある。
◆学校部活の「終わりの始まり」
ここ数年の文部科学省や中央教育審議会、またスポーツ庁の動きを見ていると、いよいよ学校部活の「終わりの始まり」が現実化してきたように見える。
今までは議論の段階だったが、一つ一つ実行に移して行くのが、これからの5年、10年となろう。
まずは中学校部活、次いで高校部活という順番だ。
働き方改革の議論が進む中で、「ブラック部活」などという言葉も出現した。
部活悪者論。
そういう世論は自然に沸き起こったのではなく、意図的なものではなかったかと、今では思う。
部活があるために先生方が疲弊している。
そういう認識が世間一般に浸透すれば、部活を学校から切り離しやすくなる。
つまり、マスコミを巻き込んだ部活悪者論は、部活を学校から切り離すための伏線だ。
先生の多忙、それによる疲弊、そして教員希望者の減少。
こうした課題が、部活の学校からの切り離しにより、どれだけ改善されるかは疑問だ。
先生の多忙の原因はもっと別なところにある。
だが、それを解決するには人も金も必要だ。
その点、部活を学校から引き離すのは、人も金も要せず、安上がりだ。
部活を諸悪の根源に仕立て上げ、働き方改革を大義に部活を学校から切り離す。
これが現在進行しているストーリーだ。
◆経産省によるスポーツ産業育成策
教育のことはもっぱら文部科学省が主導していると思いきや、むしろ経済産業省の意向が強く働いているのが現状だ。
経済産業省に「地域×スポーツクラブ産業研究会」という諮問機関があり、その設立の趣旨には次のように書かれている。
「日本のジュニア世代(小、中、高校生)のスポーツ環境である学校部活動の持続可能性が教員の過剰労働問題や少子化による生徒減によって危ぶまれる中、地域移行の必要が出てきました。このことは、有償で質の高い指導・プレー環境・人的交流機会を提供する「サービス業としての地域スポーツクラブ」が日本の各地で成長する契機になるのではないかと思われます」(※太字は筆者による)
その政策提言が昨年(令和3年)6月に出されているので、時間のある方は一読されるといいだろう。
「経済産業省 地域×スポーツクラブ産業研究会 第1次提言」
部活が学校から引き離された後は、「サービス業としての地域スポーツクラブ」が引き受ける。
ということだが、「サービス業としての地域スポーツクラブ」の成長を促すために、部活を学校から引き離すと読めなくもない。
◆学校や教育産業がスポーツクラブ運営
経済産業省やスポーツ庁の構想では、学校や教育産業もスポーツクラブの運営主体として想定している。
学校法人(私立学校)が持てる施設や人材を活用し、地域を巻き込んだ形でスポーツクラブを運営する。
あるいは、塾チェーンがスポーツクラブを併設する。
そんな時代がやって来るのかもしれない。
いずれにしても、学校体育や学校部活を中心に発展してきたジュニア世代のスポーツ活動が大きな転換期を迎えようとしているのは確かだ。
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