これはなかなか良い本に出合ったぞ。
 というのは、岡檀(おか・まゆみ)著「生き心地の良い町」(講談社)のことである。

 きっかけは、大宮武蔵野高校の校長・池田泰先生の2学期始業式の講話だ。
 3日前(9月11日)、あまり需要はないだろうと思いつつ、県内全校のHPを閲覧し、始業式式辞・講話を収集し、記事にした。
 「2学期始業式 校長は何を語ったか」
 この時、目を引いたのが、コチラ。
220901 生き心地の良いクラス
 文字が小さくて読みにくい場合は、同校HPで「メニュー>学校案内>校長あいさつ>生徒・保護者へのメッセージ」と、辿ってもらえば、当該の講話に到達できる。

◆9年間で19回増刷のロングセラー
 さて、本の話である。
 日曜日に注文し、月曜日に届いて、火曜日に読んだ。
 
 元出版業界人の私は、習慣的に本はまず奥付から確認する。
 この本は、今から9年前、2013年7月初版発行である。
 多くの本はここで終了。
 が、この本は、そこから復活したようだ。
 届いた本には「2022年7月 第19刷発行」とあった。
 初版から約10年、今もなお読まれ続けているということだ。
 これが世間の評価だ。

 私が声を大にして、いくら良い本だと叫んでも、信じる人は少ないだろう。
 だが、世間の多くの人々が、認めているのである。

◆命の大切さを説くのもいいが
 よく自殺関係のニュースがあると、「命の大切さ」を訴えるメッセージが出される。
 それはそれで意味があるのかもしれないが、では自殺を選んだ人が命を粗末にしたのかというと、そうではないだろう。
 電話やSNSなどの相談窓口も紹介されるが、それが出来ないところに苦悩があるのだろう。

 もっと手前の段階で抑止できないか。
 誰もが考えるところであるが、方法が見つからない。

 調査の結果、岡檀氏は、次の5つが「自殺予防因子」となっているのではないかと述べている。
 1 いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい
 2 人物本位主義をつらぬく
 3 どうせ自分なんて、と考えない
 4 「病」は市に出せ
 5 ゆるやかにつながる

 この調査は、地域(性)に焦点を当てたものであるが、この特性や考え方は、学校やクラスにも当てはまるのではないか。
 あるいは、応用できるのではないか。
 というのが、冒頭池田泰校長の講話である。
 私も読んでみて、そのように思った。

◆自分は「幸せ」と即答する若手社員たち
 話は少し変わるが、昨晩某大企業の現役幹部社員と懇談する機会があった。
 その中で、今の若い社員は、「幸せか」と尋ねると、皆「幸せです」と即答するという話が出た。
 「それって、なんかおかしくないですか?」と社員氏。
 本を読んだばかりの私も、「それは良くない傾向かもしれない」と言った。

 というのは、本の中で、自殺率が低いとされた町では、「幸せ」と感じている人の割合が周辺地域よりも低いとされていたからだ。
 かと言って「不幸せ」と感じている人の割合も低く、大勢を占めるのは「幸せでも不幸せでもない」という回答だった。

 「幸せ」が善である。
 人は「幸せ」でなければならない。
 だから自分は「幸せ」を求めてきた。
 そして今、その「幸せ」を手にしている。

 なんか無理してないか?
 いや、本当に、素直に、そう思えているなら構わないが、もしその「幸せ」が何かの拍子に失われたらどうする。
 一気に「不幸せ」にならないかと心配になる。
 「幸せ」が最高の善だと認めたとしても、次善として「幸せでも不幸せでもない」を許容できたほうがいいだろう。
 と、ここで話題は次に移った。

 最後にもう一度、本の情報をお伝えしておく。