すでに関係者の間では広く知れ渡っていたが、文春オンラインの記事になったので取り上げてみよう。

「入試で考えられる『ミス』がすべて出てしまった」定員120人に対しのべ出願者4681名の“人気新設中学校”「芝国際」はなぜ炎上したのか(3月31日 文春オンライン)

◆リブランディングの時代
 まずは芝国際中学高校(東京都港区)について。
 私立の先生や塾の先生方はよくご存知と思うが、公立の先生は聞いたことのない学校だと思うので簡単に紹介しておこう。
 開校はこの4月である。
 それまでの名は東京女子学園。
 歴史のある学校だ。

 近年、都内では歴史のある女子校のリブランディング戦略がそれなりに成功を収めているようだ。
 戸板女子→三田国際
 村田女子→広尾学園小石川
 などがよく知られている。
 埼玉の開智学園が日本橋女学館を開智日本橋としたのも、こうした例の一つと考えていかもしれない。
 また、同じく埼玉の小松原学園が、小松原を叡明、小松原女子を浦和麗明としたのも、単なる共学化ではないという意味では同じ流れと言っていいかもしれない。

 いずれにせよ、もはや単なる共学化では大したインパクトはなく、それ以上の改革を行わなければ誰も注目しなくなったということだ。
 建築に例えれば、リフォームではなくリノベーションが今の流れだ。
 ある意味、歴史や伝統などはバッサリ切り捨てて、まったく新しいコンセプトの学校に作り替える。

◆どんなミスがあり、何が問題だったのか
 詳しくは冒頭紹介した記事をお読みいただくとして、今年の芝国際中学校の入試で次のようなミスがあった。
 (1)2月1日の合格発表遅延
 (2)2月2日の出題ミスおよび1日、3日、5日の問題訂正
 (3)受験生待機場所の隣で合格証授与が行われていたこと
 (4)たくさん合格を出すと言っていたのに実際には少ないこと
 (5)いちど公表した入試結果速報を非公開にしたこと
 (6)試験終了後、受験生と保護者の引き合わせに多大な時間を要したこと
 (以上、文春記事より)

 受験生や保護者には大変失礼な言い方になるが、それぞれは些細なミスと言える。どこの学校でも、これまで多かれ少なかれこの程度のミスは犯しているだろう。
 (1)(2)(3)(6)などは、試験全体の運営(オペレーション)やシステムのミスだ。(3)などは、生徒の動線をちょっと変えれば防げたことだ。
 では、今回なぜニュースになったのか。

 おそらく(4)「たくさん合格を出すと言っていたのに実際には少ないこと」が一番のミスと言うか、問題だったのだろう。
 定員120人の学校にのべ4681人の受験者。単純計算で39倍。
 むろん受験生は複数の学校を受けているわけで、学校側もそれを見越した合格者を出すので、この数字を真に受ける人はいない。
 ただ、まだ何も始まっていない新しい学校にこれだけの受験生が集まったのは「多くの合格者を出す。教室にも余裕がある」という事前のアナウンスの結果であった可能性が高い。

 芝国際の説明会動画(29分過ぎあたり)

 そもそも、定員を上回る合格者を出すことを明言していいのか。
 問題はそこだ。
 私立中高の入試では合格しても入学を辞退するケースも多いので、定員以上の合格者を出すのは仕方ない。
 そこは暗黙の了解事項だ。
 しかし、それを事前に公言した。

 定員オーバーは、教育の質の低下につながる恐れがある。
 聞きようによっては、高邁な理想とは裏腹に、質の低下を宣言しているようなものだ。

 おそらく、少しでも多くの受験生を集めたい一心だったのだろう。
 仄聞するところでは、新校長以下主要スタッフは、新校立ち上げに精通した、この世界では有名なプロフェッショナル揃いだそうだ。
 そういう方々だけに余計失敗が許されなかったのかもしれない。

 今回の数々のミスを糧とし、次年度はどこからも後ろ指をさされることのない入試を実施していただきたい。