中学生向け受験情報紙の原稿を書いて一日が終わった。
 一都三県で発行している「よみうり進学メディア」ことなのだが、この中に「Q&A」コーナーというのがある。
 中学生や保護者から寄せられたさまざまな質問に答える。

 毎年、毎号ほぼ同じような質問が寄せられる。
 だが質問が同じだからといって同じ回答というわけにも行かない。
 その都度、新しい回答をひねり出す。
 年寄りの頭のトレーニングとしては、なかなかよろしい。

 今回、こんな質問があった。
 「同級生や部活の友だちが塾を決めているようです。自分はまだです。塾に通ったらなにかいいことがありますか?
 久しぶりの直球質問だ。
 塾の選び方なんかはよくあるが、「いいことあるか」と来た。
 
 さあ、塾の先生方だったらどう答える。
 「こちらの塾、入ると何かいいことありますか?」と、聞かれてるんだ。

 「成績(偏差値)が上がります
 それはそうだろう。
 だが、こんなもの、医者が病気を治しますとか、クリーニング屋がワイシャツをきれいにしますと言っているのと同じで、基本機能を説明しているだけだろう。
 「それは素晴らしい、ぜひ入塾します」となる人はよほどの無知かお人好しだ。

 「志望校に合格させます」も同じ。
 そういう商売だろう。

 結局どこの塾に行っても同じ話を聞かされる。
 あげくに「最後は本人の努力次第です」と説教までされる。

 他に言うことないのか。

 「楽して成績が上がります」なんていうのはどうだ。
 こいつは「いいこと」だろう。
 みんな努力なんて大嫌いだ。

 読み方を変えて「楽しく学んで成績があがります」という手はどうだ。
 これも結構「いいこと」だと思うぞ。
 みんな苦しむのは嫌だ。

 「偏差値が5以上上がると翌月の授業料が半額になります」。
 本人にはどうということはないが、親にとっては「いいこと」だ。

 「本番の問題、毎年100点分的中させてます」。
 5教科500点のうちの100点はでかいぞ。
 これが本当なら、こんな「いいこと」はない。
 授業料、倍払ってもいい。
 でも考えてみれば1教科あたり、たかが20点だ。
 プロにとって、それほど高いハードルとは思えん。

 半分冗談のようなことを言っているが、年寄りは真剣である。
 長くやっていると、発想も言葉も固定化してしまう。
 なまじ経験を積んでいるだけに、ストックだけは腐るほどある。
 この質問にはこれ、この質問にはこれ、と泉のように沸いて出るのだ。

 しかし考えてみれば、これこそが危険な兆候なのだ。
 年寄りは、毎度毎度同じ話をすると言われるが、よほど注意していないとそうなる。

 そう考えると、繰り返し同じような質問をぶつけてくる「よみうり進学メディア」編集部さんの存在は有難い。
 老化防止のために「いいこと」をしてくれている。

 最後に少し真面目な話をしておこう。
 「いいこと」を言って誘っておいて、入ったら「もっといいこと」をしてあげる
 これがプロのプライドってもんじゃないかと思うのである。
 皆さん、頑張って。
 私ももうしばらく頑張ってみる。