埼玉県教委が実施中の共学化に関するアンケートが問題になっている。
 以下は埼玉新聞WEB版、4月20日の記事。

 「混乱…男女別学の埼玉県立高校“共学化”アンケートやり直し 無記名式で誰でも回答可、不正できる状態「回答ハードルを下げる目的」…批判が集まり2日で停止「ずさん」 記名式にして再び開始、賛成派と反対派は」

 これは記事本文なのかと思ってしまうほど、長い長い見出しであるが、混乱、不正、批判、ずさんなど読者が食いつきそうなワードをこれでもかと並べている。

◆実施から一時停止、その後再開まで
 アンケートは4月17日に始まった。
 「埼玉県立の男女別学校に関するアンケートを実施します」(4月17日 県立学校人事課発発表)

 だが2日後の19日、アンケート設計に問題ありなどの指摘があり、いったん停止し、その後一部修正し、同日中に再開した。
 「埼玉県立の男女別学校に関するアンケートの再開について」(4月19日 同)

 修正点は「姓名欄」を追加したのみ。

◆誰でも回答できる設計
 アンケートの設計はどうなっているのか。
 どんな質問項目があるのか。
 どんな選択肢が用意されているのか。

 これらを確認するためサイトにアクセスしてみた。
 中学生用、同保護者用、高校生用、高校生保護者用の4つのURLが示されている。
 とりあえず中学生用に入ってみよう。
 すると、こちらに誘導される。
 
 すでに利用者登録している人はログインしてIDとパスワードを入力して入ることができる。
 未登録の人は、この際新規に登録することができる。IDはメールアドレスでOK、パスワードは自分で設定できるので利用者登録は超簡単だ。
 また、今回は利用者登録をしなくてもアンケートに参加できる。
 「選択中の手続き名: *埼玉県立の男女別学校に関するアンケート(「中学校・義務教育学校(7~9学年)・中等教育学校(1~3学年)・特別支援学校中学部の生徒」対象)」
 ずさんと言うなら、まずここだろう。
 調査対象を限定しておきながら、事実上誰でも回答可能な設計となっている。
 修正により「姓名欄」を新設したが、偽名を使われたらそれまでだ。
 「姓名欄」を設けたことで中高生の心理的ハードルは下がるかもしれないが、調査対象外である人の進入を防ぐことはできない。

◆紙の調査には膨大な費用がかかる
 アンケートの方法には大きく二つの方法がある。
 紙方式とWEB方式。
 他にもあるが代表的なのはこの二つ。

 例えば紙方式を採用した場合を考えてみる(差し当たり悉皆調査前提)。
 まずアンケート用紙の印刷が必要だ。
 公立中学生(1~3年)が17.4万人、公立高校生(1~3年)が10.2万人(2023年度調査)。
 これだけで27.6万人。
 保護者用は各家庭1枚とすれば、生徒数×2で少なくとも55.2万枚の用紙が必要となる。
 (A4版1枚で済むとして)
 これを中高等600校に配送し、回収する。

 中高側は生徒が回答する時間を設けなければならない。
 回収率を上げるには教室での一斉実施がもっとも確実だが、4月の忙しいさなか、その時間が取れるかという問題がある。
 自宅への持ち帰り回答となれば、中高生の提出物一発回収などほぼありえない。
 やれ紙を失くしただの、やれ破れただの、面倒なことこの上ない。
 これ以上、担任の仕事を増やしてどうする。

 無事回収できたとして今度は入力だ。
 アナログ方式ではここも時間と費用がかかる。
 1問1円として10問で10円。
 自由記述の文字入力は1文字いくらの世界だが、今回それは無視しても、約60万枚(全員回収したとして)の入力で600万円。
 これに印刷費、流通経費を加えれば1000万に届くのではないか。

◆WEB方式にも難しさが
 WEB方式を採れば、印刷費、流通経費、入力費を基本すべて省くことができる。
 コスト削減を考えればWEB方式一択である。

 ただ、こちらも費用ゼロということはありえず、システム設計、サーバー設置(運用)などが必要になる。
 外部者を排除するためには、生徒一人一人、また保護者にID・パスワードを付与するなどしてアクセス制限をかけなければならない。
 したがって、これも数十万というわけには行かず数百万となるだろう。

 ということで、今回県教委が採用したのが、すでにある埼玉県電子申請・届出サービスを利用する方法である。
 これなら基本、追加費用は発生しない。
 ただ、アンケートに適した仕様にはなっていないので、今回のような問題が起きる。

 たしかに不用意な点はあったが、生徒・保護者の負担を軽くしたい、先生や学校に負荷をかけたくない、時間もかけられない、費用もかけられないという中では、やむを得ない選択であったと同情を禁じ得ない。

 邪推すれば、県教委としてはとにかくやったという既成事実だけが欲しかったのではないかという見方もできるが、それは言うまい。

◆混乱を喜ぶ人たち
 こうした不手際や混乱に喝采を送っている人たちがいるだろう。
 今回、共学を問題化した正体不明の団体の人々であり、それに連なる組織・団体の人々だ。
 
 かれらの素性については、以前の記事に書いてある。
 
 「埼玉県の共学化問題、決定は次世代に委ねよう」(4月14日)

 何度も言うようだが、将来的な共学化に断固反対しているわけではない。

 おそらく県教委は総合的な見地から高校再編計画を考えているだろう。
 それは別学校の共学化も視野に入れたものだろう。
 一部の人たちにとってはジェンダーや女子差別がすべてなのだろうし、マスコミにちやほやされて満足なのだろうが、そういう人たちに振り回されるのはごめんだ。