最初に断っておくが、こうした倍率分析や受験生の志望動向分析については、日々受験生と接し、大量のデータを見ている塾の先生方が圧倒的にプロである。
 私は高校入試を長く見てきたとはいえ、塾の教室で一人ひとりの志望変更を追っているわけではない。したがって、以下はあくまで学校広報や募集マーケテンングの視点から眺めての考察である。

◆埼玉は年2回、志望者の動きを追える
 埼玉県では、中学校等卒業予定者を対象とする進路希望状況調査が、10月1日現在と12月15日現在の年2回行われる。
 首都圏を見ると、東京都や神奈川県は基本的に1回であり、千葉県も同様の志望調査はあるものの実施主体や時期が異なる。
 そう考えると、埼玉県はかなり恵まれている。
 受験生や保護者にとっては、自分が希望する学校にどの程度の希望者が集まっているかを、秋と冬の2度にわたり確認できる。もちろん希望倍率と実際の出願倍率は別物だが、志望校を考える上では有益な材料になる。

 そして、われわれ観察する側にとっても面白い。
 10月希望者数、12月希望者数、そして実際の出願者数。この三つを並べることで、受験生が時間の経過とともにどのように動いたかを見ることができるからだ。

◆倍率推移、三つの型
 倍率推移は大きく分ければ、三つのパターンがある。
 第一は「右肩下がり型」である。
 10月には多くの希望者を集めているが、12月、そして実際の出願へと進むにつれて人数が減っていく。

 第二はその逆の「右肩上がり型」。
 10月時点ではそれほど多くなかった希望者が、12月、出願へと近づくにつれて増えていく。

 当然ながら、ある学校から希望者が移れば、その受け皿となる学校がある。右肩下がり型と右肩上がり型が存在することで、全体として帳尻が合う。

 そして第三が「安定型」「固定支持型」とでも呼ぶべき学校である。
 10月から12月、さらに出願まで、希望者数がそれほど大きく変わらない。
 早い段階から「この学校に行きたい」と考えている受験生が多く、周囲の倍率や成績推移によっても志望が揺れにくい学校と見ることができる。

◆「浦高・一女」と「大宮・市立浦和」の違い
 埼玉県では、県立浦和、浦和第一女子、大宮の3校を「公立御三家」と呼ぶことがある。さらに市立浦和を加え、「四天王」などと表現されることもあるようだ。
 学校自身がそう言っているわけではなく、塾業界の造語だろう。

 これらは、いずれもさいたま市内にあり、大学進学実績が高く、人気も高い。そして、いずれも戦前から続く伝統校である。
 ところが倍率の動きには明確な違いがある。

 県立浦和と浦和一女は比較的安定している。つまり、最初から最後まで希望者数はそれほど大きく変わらない。これに対して大宮、市立浦和は、最初の段階では非常に多くの希望者を集めるが、その後徐々に減少に向かう(それでも高倍率だが)。

 なぜか。
 一つの大きな違いが、別学か共学かなのだが、このことは学校関係者も塾の先生方も先刻承知のことと思う。

◆別学校の方が早くから志望が固まりやすい
 県立浦和は男子校、浦和一女は女子校である。
 これは単なる学校の属性ではない。
 「男子校に行く」「女子校に行く」という選択そのものが、かなり強い意思表示だからだ。
 男子校は嫌だという男子は、そもそも県立浦和を第一希望にはしない。女子校に魅力を感じない女子も、浦和一女を候補から外す。

 逆に10月段階ですでに「浦高」「一女」と答えている生徒は、学校の教育内容や進学実績だけでなく、別学という環境も含めてその学校を選んでいる可能性が高い。
 だから志望が動きにくい。
 いわば最初から「志望純度」(という言葉が実際にあるのかどうか分からないが)が高いのである。

◆共学校は「第一候補」になりやすい
 一方、大宮と市立浦和は共学校である。
 男子も女子も選べる。しかも進学校で、人気が高く、交通の便もいい。

 そうなると10月時点では、「今のところ大宮」「とりあえず市立浦和」と考える受験生も含め、幅広い層から第一希望票を集めやすい。
 だが、その後、模試の結果が出る。内申も固まる。倍率も見える。

 男子なら県立浦和と比較するかもしれない。女子なら浦和一女との間で迷うかもしれない。逆に安全策を取って志望校を変える受験生もいる。
 つまり共学校は、選択肢が広い分、早期には多くの希望者を集めやすいが、その中にはまだ最終決定に至っていない層も多く含まれる。
 だから右肩下がりになりやすい。

 もちろん、これだけで全てが説明できるわけではない。倍率の高低、学力分布、交通事情、私立高校との競合など、さまざまな要素が絡む。 
 ただ、同じ地域の、同じような人気進学校・伝統校でありながら、倍率推移がきれいに二つに分かれる。
 そこには「別学か共学か」という学校の基本構造が、受験生の志望形成に意外なほど大きく影響しているのではないか。

 埼玉県の年2回の進路希望調査は、単に「今年は何倍だった」と一喜一憂するためだけのデータではない。
 そこからは、受験生がいつ志望校を決め、いつ迷い、そして最後にどこを選んだのか。その動きまで見えてくるのである。

 今日はそこまで出来なかったが、いずれ実際のデータをもとに掘り下げてみたい。

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