大阪国際女子マラソン。松田瑞生選手(ダイハツ)が2時間21分47秒の好タイムで優勝。流行りの厚底ではなく薄底を履いての勝利。後で録画映像を見たが、ペースメーカーを務めた新谷仁美選手が、出だしでいい流れを作ったという印象。

 いま好タイムと書いたが、松田選手の記録は日本歴代6位で、その上には野口みずきさんの2時間19分12秒(2005年)、渋井陽子さんの2時間19分41秒(2004年)、高橋尚子さんの2時間19分46秒(2001年)など、15~20年近く前の記録が残っている。
 また、世界を見渡すとコスゲイ選手(ケニア)の2時間14分04秒を筆頭に、ここ2~3年の間に15人以上が2時間20分切りをはたしている(ほとんどがケニアかエチオピアの選手だが)。
 これでは、とてもじゃないがオリンピックでのメダルなど望めそうにない。

 だが、ほんのわずかだが明るい光も見える。
 戦法の変化だ。
 昨年9月のMGCで、設楽悠太選手(武蔵越生高校→東洋大学→ホンダ)が大逃げを打った。最後はばてたが、見たことのないレース運びだ。
 中盤までは集団の真ん中かやや後方に控え力を温存し、後半に勝機をうかがうというのが、これまで繰り返されてきた戦法だが、それとは全く異なるレース運びにチャレンジした。
 今回の松田瑞生選手も、スタートから常にトップを走り、結果的にはぶっちぎりの優勝という形になった。対して、同じくオリンピック出場をめざす福士加代子選手と小原怜選手は後方待機戦術をとった。

 前半抑えて後半勝負
 トップランナーだけでなく、我々のような鈍足市民ランナーでも、これがいわばマラソンの常識なのであるが、そういう古い教科書の書いてあるような走り方では、もはや世界では通じないということに、ようやく気づいたというところだろう。

 思い返せば、金メダリストの高橋尚子選手も野口みずき選手も、後方から追い上げて勝ったわけではなかった。記憶では高橋選手は20㎞以前にスパートをかけたし、野口選手も中間点あたりでスパートをかけた。スタミナに余程の自信があったのだろうが、前半勝負は勇気がいるものだ。やっぱりこの二人は別格だ。

 という立派なお手本がありながら、前半抑えて後半勝負という昔ながらの戦法に固執し、勇気ある走りができなかったのが、マラソン界低迷の一因だろう。

 前半から突っ込む
 よく走りの世界ではこのような表現をするが、後半のスタミナ切れを恐れてなかなかできないものだ。もちろん、力を温存して最後のトラック勝負というのも戦法としては十分ありなのだが、どちらかと言うと消極策であって、勝負には勝てても記録は狙えない。

 先は長いんだから、焦らず、のんびり、着実に行こうぜ。
 どうも最近は人に対して、そんなアドバイスをすることが多くなった。自分に対しても、心の中でそう言い聞かせている。それが、練りに練った戦略であればいいのだが、どうもそうではない。

 消極策の最大の欠点は、待っていた勝機が訪れない場合があるということだ。まだまだと言っているうちに、とうとうそのタイミングが訪れないまま終わってしまう。
 前半から突っ込んで、自ら勝機をつかむ。そういう戦い方を忘れてはいかんな。