ちょうど1週間前の3月9日、新型コロナウィルス感染症対策専門家会議(以下、専門家会議)が、「新型コロナウィルス感染症対策の見解」を発表した。
 内容は6項目で、次のとおり。
 1. 感染拡大の防止に向けた日本の基本戦略
 2. 現在の国内の感染状況
 3. 重症化する患者さんについて
 4. 北海道における、「人と人との接触を可能な限り控える」対策について
 5. 今後の長期的な見通しについて
 6. みなさまにお願いしたいこと

 では、マスコミはこれをどう伝えたか。
 ネットニュースから代表的な見出しを拾ってみよう。
 「新型コロナ『長期化の可能性』と専門家会議」(共同通信)
 「新型コロナ対応『年を越えて続くかも』 専門家会議、長期化の可能性示唆」(毎日新聞)
 このような感じ。

 問題なのは「長期化(の可能性)」の文言だ。
 実は、専門家会議の見解の中には、「長期化」の語はない。近い表現があるのは一か所、「今後、急速な感染拡大が予想される地域では、その地域ごとに『人と人との接触を可能な限り控える』対策を進め、収束に向かえば、比較的、感染拡大のリスクの低い活動から解除するなど、社会・経済活動の維持と感染拡大防止のバランスを取り続けるような対策を繰り返すことが、長期にわたって続くと予想されます」の部分だ。
 つまり、「長期にわたって続く」と予想されるのは、感染者や死者の増大ではなく、「社会・経済活動の維持と感染拡大防止のバランスを取り続けるような対策を繰り返すこと」だと言っている。

 記事本文を読むと、たしかに専門家会議の見解をその通り伝えているのだが、見出しだけを見ると、人々の不安を煽るような表現になっている。
 まあ、上手いと言えば上手いのだが、本文をきちんと読まない人はコロッと騙されてしまう。

 私がオヤッと思ったのは、朝日新聞デジタルの見出しだ。
 「長期化に向け、社会経済活動とのバランスを 専門家会議」(朝日新聞)
 数ある記事の中で、見出しに「社会経済活動とのバランス」を持って来たのは、たぶんこれだけだ。
 専門家会議の見解を一番正確に伝えているし、記事本文の内容とも一致している見出しだ。
 私はこれを見て、マスコミの論調が少しずつ変わり始めるのではないかと予感した。人々の不安を煽る記事でページビュー稼ぐ戦略はそろそろ終わりにして、社会の動きを元に戻そうという記事を増やす方向への転換を試みているのではないか。

 この見立てが結構当たっているのではないかと思わせるのは、3月15日付朝日新聞社説だ。タイトルは、「感染症と学校 安全と日常 両立探って」。この中に、「感染拡大の防止と生活・心の安定との均衡をどう図るか、冷静に考え、実践する必要がある」、「このところ、いくつかの地域で休校解除の動きが出てきた」、「徐々に平常に戻す道を探りたい」、「完璧な安全などない。心を広く持って長期戦に備えよう」といった表現が見られる。もちろん、朝日新聞らしく、一番困るのは社会的・経済的弱者であるという視点からだが、たしかにその通りで、零細企業を営む私ももろに打撃を受けている。

 いずれにしても、今後は、感染拡大防止と社会経済活動とのバランス、学校で言えば教育活動とのバランスが重要課題になってくるだろう。