「小学校の教科担任制、22年度から導入」。こんなニュースを目にした方も多かろう。
 文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会(中教審)の答申に盛り込まれた内容の一部である。
 2019年4月、文部科学大臣から「新しい時代の初等中等教育の在り方について」諮問されたので、そのお答え(答申)ということだ。
 審議内容は途中段階でも公開されていたので、初めて聞いたという人はいないだろう。

 当ブログ読者は教育関係者がほとんどだと思う。
 他の話題ならともかく、これは今後の仕事にも大きく関係することなので、元データを当たっておくことをお勧めする。
 未読の方のために、その在りかを紹介しておく。

 「令和の日本型学校教育」の構築を目指して【概要】

 「令和の日本型学校教育」の構築を目指して【本文】

 概要だけでもA4版13ページあるので読むのは大変だ。
 本文となると、A4版92ページにも及ぶため、すぐには無理だ。
 資料の在りかだけ押さえておき、暇なときに読むか、必要に応じて参照すればいいだろう。

 マスコミ報道は答申のごく一部である。
 スペースの関係もあり、とてもすべてを紹介するというわけにはいかない。
 では何を取り上げるかと言ったら、もっとも一般受けする部分に決まっている。
 記事にするかどうかの基準は、事の重大性ではなく、読まれるか読まれないかである。

 ちなみに、答申は大きく「総論」と「各論」という構成になっている。
 「各論」は9項目ある。
 1 幼児教育の質の向上について
 2 9年間を見通した新時代の義務教育の在り方について
 3 新時代に対応した高等学校教育等の在り方について
 4 新時代の特別支援教育の在り方について
 5 増加する外国人児童生徒等への教育の在り方について
 6 遠隔・オンライン教育を含むICTを活用した学びの在り方について
 7 新時代の学びを支える環境整備について
 8 人口動態等を踏まえた学校運営や学校施設の在り方について
 9 Society5.0時代における教師及び教職員組織の在り方について

 このうち「小学校の教科担任制」に触れているのは、「2 9年間を見通した新時代の義務教育の在り方について」の部分である。
 ここにはさらに6つの小項目があり、その一つとして「(3)義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方」がある。
 教科担任制に興味のある方は、その部分だけ拾い読みされたらいいと思う。

◆教科担任制の実情
 ちょっと気になったので小学校の教科担任制の実情について調べてみた。
 小学校等における教科等の担任制の実施状況「文部科学省」という資料が見つかった。
 
 小学6年生の場合、教科担任制の実施率は次のようになっている(高い順)。
 1 音楽 55.6%
 2 理科 47.8%
 3 家庭 35.7%
 4 書写 26.8%
 5 図工 21.0%
 6 外国語19.3%
 7 体育 10.5%
 8 算数  7.2%
 9 国語  3.5%
 音楽や家庭は昔から専科の教員が教えるケースが多かった。
 理科は実験や観察など授業準備に時間を要するので専科の先生が教えるケースが増えている。
 
 今般の答申では、新たに専科指導の対象とすべき教科の例として、外国語・理科・算数が挙げられている。
 理科はすでに専科指導が進んでいる。
 算数はつまづく児童が多いということらしいが、つまづくのは算数だけではあるまい。
 とすると、ここでは外国語(英語)のことを言いたいのだろう。あとの二つは付け足し(お付き合い)。
 たしか英語は担任が教えるようなことを言っていたと思うが、方針転換ということか。
  
◆気になる「義務教育9年間の見通し」という言葉
 答申の中に繰り返し登場するのが「義務教育9年間を見通した」というフレーズである。
 もちろんこの言葉、今初めて登場したわけではなく以前からあるものだが、最近特に目立つようになった。
 
 小学校、中学校とを分けるのではなく、小中9年間を一体のものとして考える。
 となれば、その先にある具体的な形の一つが、義務教育学校ということになる。いわゆる小中一貫だ。

 さいたま市なども義務教育学校設置に向けて動き始めている。
 埼玉県内には春日部市立江戸川小中学校の例があるが、こちらは9学級190人の小規模校だ。
 対して、さいたま市が構想している武蔵浦和の「沼影小+大里小+内谷中」の場合は、3000人の超大規模校となる。
 早くとも5年後の開校ということで今後紆余曲折あろうが、新しい流れとして注目しておくべきだろう。
 ついでに。
 さいたま市は2021年度、つまり今年4月から市内10校で小学校の教科担任制を先行実施する(市内には小学校は104校ある)。

 話を戻す。
 「義務教育9年間を見通した」である。
 9年間を見通した教育課程や指導体制を構築し、専門性を持った教員によるきめこまかな指導により授業の質の向上と学びの高度化を図る。
 と、公立学校はこんな方向性を示している。
 事がうまく運ぶかどうかは分からないが、とにかく目指す方向は定まった。
 
 私立学校関係者の皆さん。
 切れ目のない9年間
 小中一体となった9年間
 ですよ。

 もちろんすべての小中学校が義務教育学校化するわけではない。
 だが、こうした動きがどういう意味を持つか。
 想像できますね。
 教科担任制の話にばかり気を取られないで、こっちの方を一緒に考えて行こうじゃありませんか。