今日から東京・神奈川などの私立中学入試が始まった。
 「今日から」と言ったが、そう長く続くわけではなく、2月10日からは私立高校入試が始まるので、それまでにはほぼ終了する。

 埼玉県にいるとピンと来ないが、東京都区内や神奈川県都市部の学校においては、中学入試こそが生徒募集のメインである。
 いや、メインどころか高校からの募集を行わない学校も多いので、中学入試がそのまま高校入試であり唯一の生徒募集の機会である。

 埼玉県においては、私立学校自体の数も少なく、特に中学校はここ10年から20年の間に開校した新興勢力ということもあって、県内の私立中学校受験者層を十分に取り込めていない。
 全県的に見れば、小学生100人のうち10人程度は私立中学校(=私立中高一貫校)を志向しているはずだが、そのうち半分以上は東京に流れてしまう。
 東京に近く、鉄道網も発達していて通うのに便利という埼玉県の利点が、この場合はマイナスに作用している。

 こうした環境であるから、超がつくような難関校や有名大学附属に一定数が流れる傾向は防ぎようがなく、今後も続くと考えられる。
 しかし、それ以外の都内中堅レベル校には十分対抗し得るはずである。
 というか、それが出来なければ、県内私立中学校は拡大どころか先細りになってしまう。

 定員に達していない学校が新たな市場掘り起しを目指す。
 これ自体はそれほど間違ってはいない。
 特に埼玉県は伝統的に公立志向が強いので、私立教育の良さやそのレベルの高さを知らしめ、私立中学校受験者層の拡大を図るのはいい。

 しかし、仮に私立中学校受験者層が拡大しても、その増えた分の多くを東京に吸い取られてしまっては何にもならない。
 一体誰のために努力し、工夫しているのかという話になる。
 
 現状でも、私立受験者層のかなりの部分が東京に流れているとすれば、この問題を解決しない限り、いくら市場拡大を図ってもその果実を自ら手にすることはできない。

 市場拡大を目指しつつ、その果実を確実に自らのものにするにはどうしたらいいか。

 本気を示す。

 冷静に、客観的に見れば、中高一貫教育に本気で取り組んでいるようには見えない。
 もちろん先生方が日々本気で生徒と向き合っていることは百も承知である。
 いつも言うように、私は表面的な数字だけでものを言っているわけではない。
 授業も部活も行事も、自分の目で確かめた上での話だ。

 だから、そういうレベルの話ではなく、学校の経営戦略レベルの話だ。
 埼玉県内の中高一貫で、高校募集を行わないのは浦和明の星女子のみである。
 31校中ただの1校。
 だが、東京では以前からそういう学校があり、さらに増えつつある。
 高校募集をするとしても定員の一部を割り振るというスタイル。

 それに対して、埼玉県内の多くの私立一貫校は相変わらず高校募集がメインで、中学校にはその補完的役割を担わせている。
 中学校募集でとれなければ高校募集で挽回すればいい。
 そのように考えているふしがある。

 お客さん目線で考えた場合、ここに本気を見ることができるかどうかという話だ。

 高校で500人とるんだったら、せめてその3分の1の160人は内進生で占めることを目指す。
 できれば2分の1の240人を、もっと言えば3分の2の320人を内進生が占めるようにする。
 たとえば、そういう明確なプランがあって、その途中経過で今は少数というなら分かるが、それが示されずにただ少数募集だ、少人数教育だと言われても、お客さんは納得してくれないだろう。

 私は実際に学校経営に関わったことはないので、想像するしかないが、160人とか200人とか240人募集に持って行くのは勇気がいることだろう。
 そのための体制づくりだって、校舎や施設設備の拡充や教員採用など課題はいくらでもあるだろう。
 簡単ではない。
 だが、いつまでも東京私立の下請けのような存在では困るから、何としても実現しよう。