つい最近、廃止がトレンドという記事を書いた。
 この記事は半分皮肉が含まれているのだが、教員の働き方改革を背景に廃止ブームが到来するのは間違いない。

 讀賣新聞オンラインで、こんな記事を見つけた。
 家庭訪問・水泳指導は「廃止」、マラソン大会・運動会は「縮小」…教職員の負担軽減へ提言(2022年12月30日)

 群馬県の話なので、地元紙・上毛新聞にも出ている。
 家庭訪問やプール開放 教職員の多忙化解消 廃止・縮小具体例を提言(2022年12月24日)

 元ネタは、群馬県教育委員会の発表である。
 【12月23日】教職員の多忙化解消に向けた協議会からの「提言R5」について((教)学校人事課)

◆教員の働き方改革の視点
 提言の中身を見る前に、一点確認をしておこう。
 この提言は「教職員の多忙化解消に向けた協議会」によるものである。
 そういう性格の会議であるから、主役は児童生徒ではなく先生である。
 教育的な意義や効果という視点がないわけではないが、重心はやや先生寄りに傾いている。
 その点を踏まえて見て行こう。

 「廃止」が可能な業務例として次の三つを挙げている。
 定期的な家庭訪問
 夜間の電話対応
 夏休みの水泳指導・プール開放

 これにより児童生徒、保護者が困るとうことはないので、廃止で問題ないだろう。

 次に「縮小」を推奨する業務例として次の八つを挙げている。
 式典(卒業式・始業式など)
 マラソン(持久走)大会
 運動会・体育祭など
 業前活動・清掃活動
 学校評価
 学習指導案
 授業時数
 その他

 児童生徒の活動が伴うものと、教員の活動が混在しているが、ここは少し立ち入って見てみよう。
【式典(卒業式・始業式など)】
「内容削減、来賓・招待者の精選などにより式典を簡略化することで、事前準備や当日の運営の軽減することができます」

 卒業式で来賓の一人や二人減らしたところで事前準備や当日運営の負担がそれほど減るとは思えない。
 始業式など元々簡素なものだ。
 とりあえず例として並べておいただけだろう。

【マラソン(持久走)大会】
「体育の授業中や校地内での実施などにより、道路使用許可申請や、安全確保にかかる教職員配置、保護者の動員など、大会の準備・運営の負担を軽減することができます」

 学校が市街地にある場合、周辺での実施は難しそう。
 元々マラソン大会を実施しない学校もある。
 埼玉県の高校では、校外のスポーツ施設を利用するケースも増えている。熊谷スポーツ文化公園、渡良瀬遊水地、森林公園、埼玉スタジアム、彩湖など。
 私が毎年出場している加須こいのぼりマラソン大会には、県立不動岡や開智未来の生徒がマラソン大会を兼ねて参加する。コースの安全確保や誘導、給水などは主催者が行ってくれるので、教職員の負担は軽そうだ。

【運動会・体育祭など】
「児童生徒の意欲や活躍場面を考慮し、競技種目の精選、練習時間の縮減、半日開催など工夫することで、児童生徒・教職員双方の負担を軽減することができます」

 フルにやっても3時頃には終わるだろう。
 半日にしたところで、負担軽減などたかがしれている。
 事前練習とか予行に割く時間を減らすのはいい。

【業前活動※主に義務教育・清掃活動】
「業前活動の縮小や清掃日の限定など、学校の日課を工夫することで、放課後の事務作業や部活動の時間を増やすことができます」

 業前活動として朝読書や朝体操などを行っている学校がある。
 やるなら週1回でいいだろう。

【学校評価】
「評価に必要な内容を精選し、実施回数や評価項目を限定することで、経営の重点で明確にした学校運営の改善につなげることができます。また、ICTの活用も有効です」

 学校評価支援システムなども開発されていることだし、可能な限り外注すればいい。

【学習指導案】
「目的に応じて、必要な要素を簡潔に示す学習指導案形式にすることで指導のポイントを明確にし、作成にかかる負担を軽減することができます」

 毎時間指導案を作成している先生はいないだろう。
 ただ、公開授業や研究授業の時には必要だ。
 多くの教育委員会では、指導案のデータベースのようなものを作成している。
 埼玉県の場合も、県立総合教育センターのサイトにある。
 これをさらに充実させればいい。

【授業時間(余剰時数の削減)※主に義務教育】
「年間の授業時数を適切に計算し、余剰となる時数の削減に努めることで、削減された時数を事務処理の時間や休暇取得の促進などに充てることができます」

 スマン。ちょっと何言ってるか分かんない。
 やること多過ぎて教科書が終わらないというのに、余剰時数なんてあるのか。

【その他】
「週休日や長期休業中・放課後などにおける補習対応の精選、学習発表会の内容精選などが考えられます」

 精選とは誠に便利な言葉である。
 言い換えれば、最小限、最低限。
 保護者からクレームが来ない程度に形だけやっておけということか。

 以上のほか、「ICT化を推奨する業務例」も三つ挙げられている。
 児童生徒の欠席連絡
 各種アンケート・意向調査
 その他
 これらについては、すでに実施済の内容が多いので、ここではコメント省略。

 最後に、「業務や行事等の廃止・縮小については、学校の実情や教育的意義を踏まえ、代替案の実施と合わせて検討をお願いします」とある。
 わざわざ言われなくて学校の実情や教育的意義を踏まえるのは当然だ。しかし、それを考えれば考えるほど廃止も縮小もできなくなる。そこで必要になるのが行政側の支援だが、その点については言っていない。 

 この提言に一つ加えるとしたら「教育委員会の人員削減」だろう。
 つまり役人の精選。
 人数が減れば、出来る仕事に限界があるので、「この調査、やめとこうか」となる。
 教育委員会自身が廃止や縮小を進めてくれると学校はかなり楽になる。