恵泉女学園大学(東京都多摩市)が学生募集を停止する。
 今後、こうしたニュースがさらに増えるであろう。

 恵泉女学園大学の不振の原因は、女子大であることの他に、立地(アクセス)の悪さや、学部構成の問題もあっただろう。
 人文学部(日本語日本文化科、英語コミュニケーション学科)と人間社会学部(国際社会学科、社会園芸学科)の2学部4学科体制だが、前者は要するに文学部の国文、英文だ。今どき文学部を目指す女子がそれほど多いとは思えない。人間社会学部に社会園芸学科があるのは、この大学が短大であった時代に園芸科があり、それを引き継いだからである。

 1 共学化する
 2 他大学と合併する
 3 キャンパスを移転する
 4 学部・学科を改組、新設する

 さまざまな生き残り戦略が考えられるが、これらを全く行なわなかったり、行ったとしても不十分であった場合は、市場からの撤退を余儀なくされるという典型的な事例であろう。
 ただ、この学園の場合、中高はしっかり生徒を集められている。
 余力のあるうちに不採算部門を整理するという意味では、至極当然の戦略と言えるだろう。

 さて、この先は本ブログらしく「埼玉目線」で女子大問題を考えてみよう。

◆埼玉県の高校生に選ばれている女子大はどこか
 昨年(令和4年3月)のデータから埼玉県の公私立卒業生が実際に進学した女子大を見てみよう。
 データは県教委による「高校卒業者の進路状況調査」である。

 実際の進学者が多い順に挙げて行くが、キャンパスが埼玉県内にある大学が上位に来そうだと予想できる。
 また、学部構成という点では、実学系、資格取得系の学部・学科のある大学が上位に来そうだということも容易に想像できる。

◆1位~5位
01 十文字学園女子大学 484人
02 東京家政大学    452人
03 跡見学園女子大学  296人
04 昭和女子大学    267人
05 大妻女子大学    257人
 
 十文字学園女子大は新座市にある。JR武蔵野線「新座駅」から徒歩10分程度とアクセスは良い。人間科学部、教育人文学部、社会情報デザイン学部の3学部構成。栄養や管理栄養士、保育士や幼稚園教諭、小中高教諭などの資格、免許が取得できる。

 東京家政大は、板橋キャンパス(JR埼京線「十条駅」)に家政学部、栄養学部、児童学部、人文学部が、狭山キャンパス(西武池袋線「稲荷山公園駅」)に健康科学部、子ども支援学部がある。いずれも駅から徒歩圏内と通学の便が良い。こちらも栄養や教育など実学志向であり、さまざまな資格・免許取得が可能だ。健康科学部には看護学科もある。

 跡見学園女子大は、文学部、マネジメント学部、観光コミュニティ学部、心理学部の4学部構成。1・2年次は新座キャンパス、3・4年次は文京キャンパス。マネジメント学部・観光マネジメント学科を観光コミュニティ学部に、文学部・臨床心理学科を心理学部に、それぞれ独立させるなど学部学科の再編を進めている。

 昭和女子大は、世田谷区三軒茶屋にある。埼玉県内にはキャンパスはない。学園理事長はかつて埼玉県副知事を務めた坂東真理子氏、付属中高の校長は元県立松山女子高校・大妻嵐山中高の校長を務めた真下峯子氏と、人的な縁はある。学部は国際学部、人間文化学部、食健康科学部、グローバルビジネス学部、人間社会学部、環境デザイン学部の6学部構成。理工系学部はないが、人文科学・社会科学の多領域をカバーしている。

 大妻女子大は、東京都千代田区にある。埼玉県内にはキャンパスはない。付属校として大妻嵐山高校があるが、内部進学者は50人前後なので他の県内公私立高校からの進学者の方が多い。学部は家政学部、文学部、社会情報学部、比較文化学部、人間関係学部(多摩キャンパス)の5学部構成。  

◆6位~10位
06 日本女子大学 237人
07 共立女子大学 196人
08 実践女子大学 166人
09 女子栄養大学 145人
10 東京女子大学 129人

 日本女子大は、文京区目白台にある。学部は家政学部、文学部、理学部、人間社会学部に、2023年度開設の国際文化学部を加えた5学部構成。理学部は私立女子大では唯一。2024年度には建築デザイン学部が開設される予定。

 共立女子大は、千代田区一ツ橋にある。学部は家政学部、文芸学部、国際学部、看護学部、ビジネス学部、建築・デザイン学部の6学部構成。

 実践女子大は、渋谷区にある。近くには青山学院大学や國學院大學などもある。学部は文学部、人間社会学部、生活科学部(日野キャンパス)の3学部構成。

 女子栄養大は、坂戸市にある。東武東上線「若葉駅」からは歩いて5分とかからない。その名のとおり栄養学部のみの単科大学。

 東京女子大は、東京都杉並区にある。中央線・総武線「西荻窪駅」から徒歩15分程度。学部は現代教養学部のみ。学科には国際社会学科、心理・コミュニケーション学科、数理科学科など5学科がある。 

◆家政、栄養、教育が柱
 埼玉県内高校から100人以上の進学者があったのは以上の10大学。

 十文字学園女子大、東京家政大、跡見学園女子大、女子栄養大などはキャンパスの全部または一部が埼玉県内にある。通い易さが重要であることを示している。

 学部・学科の傾向はどうか。

 家政学部があるのは、東京家政大、大妻女子大、日本女子大、共立女子大。

 栄養学部は女子栄養大と東京家政大にあるが、十文字学園女子大の人間生活学部に食物栄養学科、昭和女子大の食健康科学部に管理栄養学科、実践女子大の生活科学部に管理栄養士専攻がある。

 教育関係では、十文字学園女子大の教育人文学部に幼児教育学科と児童教育学科、東京家政大の児童学部に児童学科と初等教育学科、昭和女子大の人間社会学部に初等教育学科、大妻女子大の家政学部に児童学科、日本女子大の家政学部に児童学科、共立女子大の家政学部に児童学科がある。

 ひと昔前、いや、ふた昔前は家政学部と文学部が女子大のツートップだった思うが、家政学部の方は依然として健在だが、文学部の方は退潮気味だ。跡見学園女子大、大妻女子大、日本女子大、実践女子大などに文学部は残っているが、もはや看板とはならない。

 家政・栄養、幼児教育・児童教育。
 これら伝統的な学部・学科に加え、国際、情報、コミュニケーション、ないしは心理、建築、デザインといった方向にウイングを広げて行かないと、女子大であるかどうか以前に、大学として存立し続けられるかどうかの岐路に立たせられるだろう。

◆その他の女子大、埼玉からの進学状況大
 最後に埼玉県内高校からの進学者が多い、その他の女子大を紹介しておこう。
11 津田塾大学    96人
12 日本女子体育大学 92人
13 学習院女子大学  51人
14 東京女子体育大学 50人
15 聖心女子大学   45人
16 駒沢女子大学   42人
17 白百合女子大学  39人
18 清泉女子大学   37人
19 女子美術大学   30人
20 和洋女子大学   28人
21 東京女子医科大学 18人
22 フェリス女学院大学14人
23 恵泉女学園大学 8人
24 川村学園女子大学 6人
25 鎌倉女子大学   5人