中学生向け進学情報紙「よみうり進学メディア11月号・埼玉版」では、毎年恒例の特集企画「これが高校の授業だ」を通じて、受験生に高校の学びの魅力を伝えている。
今年は私立2校、公立2校の計4校を取材対象とし、私立からは花咲徳栄高校と狭山ヶ丘高校、公立からは熊谷西高校と越谷南高校を取り上げさせてもらう予定だ。
◆授業の「導入」に凝縮された教師の技
花咲徳栄高校では、塚本裕紀先生による3年生「化学」の授業を参観した。
授業は「チャイム・トゥ・チャイム」、すなわち始業の礼から終業の礼までフルに見学する形式を基本としている。
特に注目すべきは授業冒頭の「導入」部分だ。塚本先生は教員歴13年の中堅教員であり、授業の狙いや注意事項を簡潔かつ的確に伝える手腕は流石だ。実験時間を最大限に確保するための工夫が随所に見られた。
◆タブレット活用と選抜クラスの意識の高さ
実験手順は事前にタブレット端末で配信されており、生徒たちは予習済み。
同校はICT教育への取り組みが早かったこともあり、先生・生徒とも端末の扱いには習熟しているようだ。
授業は理数選抜クラスと文理選抜クラスの選択授業として行われており、国公立大学進学を目指す意欲的な生徒が多く集まっている。
◆系統分析実験に見る協働と自律
この日のテーマは「系統分析」。複数の金属イオンを含む水溶液に試薬を加え、沈殿を通じて分離するという手順の多い実験だが、生徒たちは予習の成果を発揮し、スムーズに進行させている。
4人1組のグループ活動では、先生に頼る前に自分たちで解決しようとする姿勢が印象的だった。
リーダー役が固定されることなく自然に交代し、いわゆる「お客さん」状態の生徒が一人もいない点も特筆すべきだ。これは、1年次から計画的に実験を取り入れてきた成果であり、学習意欲の高い集団ならではの協働の姿が見られた。
◆卒業生教員としての誇りと授業への情熱
塚本先生は花咲徳栄高校の卒業生であり、埼玉大学理学部を経て母校に戻ってきた。
(大学では生体制御学科で主に遺伝学を学んだとのこと)
先生は同校初の卒業生教員であり、授業に対する責任感と情熱は並々ならぬものがある。
冗談や大声に頼ることなく、真面目で研究者肌のスタイルで教室を掌握。実験中は各班を回りながら短く的確なアドバイスを行い、教室全体を巧みにコントロールしていた。これは若手には真似できない熟練の技と言っていいだろう。
◆「自走力」の育成を目指して
学年や分掌で重要な役割を担うことが増えてきた塚本先生だが、原点はやはり授業。生徒が自ら考え、判断し、行動できる「自走力」のある人間の育成を目指し、授業研究に余念がない。
高校の授業とは、単なる知識の伝達ではなく、生徒の主体性を育む場である──そのことを改めて実感させられる取材となった。

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