10月11日(金)、埼玉県教育委員会は令和9年度公立入試の「入学者選抜実施要項」と「入学者選抜要領」の暫定版を発表した。

令和9年度埼玉県公立高等学校 入学者選抜実施要項 入学者選抜要領(令和6年10月現在 暫定版)

 「要項」・「要領」は通常であれば約半年前に発表される。
 たとえば今年の入試(令和7年度入試)であれば、令和6年7月初めに発表された。
 したがって令和9年度入試であれば、普通ならば令和8年7月初めとなるわけだが、2年近く前の発表となった。
 言うまでもなく入試制度改革に伴う措置である。

 内容的には先般(9月26日)に発表された基本方針に基づくものである。
 令和9年度埼玉県公立高等学校入学者選抜実施基本方針

 暫定版であるので、詳細未定の部分も多いが、塾関係の皆さんは一応押さえておくとよいだろう。

◆難しい市場予測
 この度の入試制度改革で入試市場全体がどう動くかを予想するのは非常に難しいところである。

 かつて埼玉県にも推薦入試という制度があった。
 前期・後期制と試験を2回行った時代もあった。
 さらに学区制というものもあった。
 それらが廃止ないし変更され、その他いろいろ変更があり今日の制度に至っている。

 そして、これは制度ではないが、受験生数の大幅な減少、それに伴う公立の統廃合、私立の台頭、中高一貫校の増加などもあり現在の市場(マーケット)が形成されている。

 公立入試制度の変更は市場動向に影響を及ぼすが、それ以外の要素も見て行かないと全体の動きは予測できない。

 そんな中、一つ確実に言えるのは、制度変更によって公立高校希望者の爆発的増加はないということだ。
 そもそも児童生徒数が激減しているのであるから、私立も含め今後受験生の増加はありえないのである。

 では、公立高校希望者の減少及び割合の低下に歯止めがかかるだろうかということだが、これもないだろう。
 なぜならこの度の改革には、受験生視点で見た場合に「減る要素」「負担が軽くなる要素」がないからである。
 面接が加わる、自己PRを書かなければならない。
 これに不安をおぼえたり、新たな負担と受け取る受験生は多いと思われる。
 引き続き5教科の学力検査は全員に課せられるし、調査書の評定に一定の重みがあるのも変わらない。

◆魅力化を図れば・・・
 公立の先生方と話していると、「その分、学校の特色化や魅力化を図れば」といった意見が聞かれる。
 長期的に見ればたしかにそうだろう。
 しかし、私のように、入試という一点から生徒募集を考えている者からすると、それはちょっと甘いと言わざるを得ない。

 どんなに良い商品を開発しても、販売の仕方を誤れば売れない。
 それと同じで、どんなに特色化や魅力化を図っても、入試制度の設計を誤れば生徒は集まらないのである。

 もちろん、この度の制度変更が誤りだと言っているのではない。
 入試の仕組みを根底から覆すような破壊的な改革ではないので、各校が細かな設計・運用を誤らないかぎり一気に公立人気が下がることはないだろう。

 だが、上位10%から20%くらいの層はいかなる制度であっても動じることなく乗り越えるであろうが、それ以下の層は、「複雑そうな」「難しそうな」制度に動揺し、それが学校選びにも影響するだろう。
(なお、下位層は別の意味でいかなる制度変更にも動じない)

 従来通り具体的な設計は各校に委ねられることになるが、できるだけ「シンプル(単純化)」「分かりやすさ」を心がけたほうがいいだろう。