いつものことだが、何でも言いっ放しで済む、気楽な立場からの発言である。
 学校のブランド化(特色化や個性化)と、公務員(公立高校の先生)の人事制度は、実に相性が悪いなという話だ。

 公立に限らず、学校がブランド化(特色化や個性化)を図るのはいい。
 受験生にさまざまな選択肢を提示できるからである。
 「あそこもいい、ここもいい。行きたい学校がたくさんあり過ぎて、迷っちゃう」というのは実にハッピーなことではないか。

 そこで、先生方は日々、学校のブランド化(特色化や個性化)に励むわけである。
 公立の場合は、県教委も発破をかける。
 しかし、これが遅々として進まない。

 その理由はなんなのか。
 たとえば予算。
 金さえあれば何でもできるというものではないが、1円も出さずにさあ、やってみろと言われても、そうは行かない。
 さて、そんな中。
 かなり強力なブレーキになっていると思われるのが、教員人事である。
 教員人事がかかえる構造的な課題。
 これが学校のブランド化(特色化や個性化)を阻んでいる。

◆なぜ先生を短期間で異動させるのか
 教育委員会が教員を定期的に異動させるのには、行政上の明確な理由(ロジック)がある。

 ひとつは、教育水準の均質化(公平性)を図るためである。
 公立学校の使命は「どこでも一定水準の教育を受けられること」だ。
 優秀な教員や管理職が特定の学校に固定されると、学校間格差が拡大してしまう。そこで人材を循環させてバランスを取ろうとする。

 組織の硬直化や癒着の防止を図る意味もある。
 長期間同じ学校にいると、特定の教員の発言権が強くなりすぎたりする(恥ずかしながら自分もそうだった)。
 地域の業者や保護者との関係が近くなりすぎたりするリスクもあり、これを防ぐための「淀み防止」の側面がある。

 さらに、教員の能力開発という目的もある。
  困難校、進学校、専門高校など、異なる環境を経験させることで、教員としての総合力を高めるという人材育成の観点がある。

 結局、この人事システムは、「公立全体のリスク管理と平均化」には最適化されているが、「個別の学校の尖ったブランド作り」には適していないということだ。
 なお、人事異動がほとんどない私立は、ブランド作りには適しているが、リスク管理という点で弱点を抱えているという認識が必要だ。

◆構造改革はできるか
 私は教育行政というものに関わったことがない。
 そのため、この部分についての考察はあまり自信はないのだが、自治体レベルでは少しずつ変化の兆しはあるように思える。
 構造上の課題は、外野から指摘されるまでもなく県教委もよく分かっているからだ。

 そこで、人事については専門家に任せるとして、 現行制度の中でも可能な現実的な戦略について考えてみる。

 まず重要なポイントは、人が入れ替わることを前提としたブランド維持・強化を図ることである。
 「人」ではなく「仕組み」と「文化」に依存させる改革が必要だ。

 学校のブランド化(特色化や個性化)をはかるには、改革のグランドデザインの引継ぎが不可欠だ。
 2年ごとに替わる校長が、改革と称してその都度設計図を書き換えているようでは、いつまで経ってもブランド化などできない。
 5年、10年スパンのロードマップを明文化し、教育委員会とも共有し、「誰が来てもこの部分は変えない」という「核心部分」を明確にしておくことが必要だ。

 校長が2、3年で替わる人事制度を急には変更できないとすれば、学校のブランド化という課題は、ミドルリーダーを中心に行ったほうがいい。
 全体を引っ張るのは校長の仕事だが、実務・実働部隊は、校長よりも長く在籍することが分かっている主幹教諭や教務主任が中心となって編成するべきだろう。
 精神的には校長主導であったとしても、ミドルリーダーやプロジェクトチームが改革の主体とならないと、トップの交代によってゼロに戻ってしまう。

 教員は異動するが、同窓会・後援会、地域住民、連携企業・大学などは異動しない。
 こうした外部の学校関係者をアンカー(船の碇)として機能させるのも一つの方法だ。
 「おたくの学校って、こういう学校ですよね」と、外部からメッセージを送り、ある意味プレッシャーをかける。
 功罪相半ばといったところだろうが、学校の「文化の継承」というのは、そこの学校に勤務する先生だけで出来るものではない。

 学校には、「あの先生がいるから」というものが、いくつもあるだろう。
 これは学校の宝であるから大事にしたい。
 しかし、その宝も、原則手放さなくてはならない。
 だとすれば、進路指導のノウハウにしても、探究学習のカリキュラムにしても、行事の運営方法にしても、そういった国宝級の先生、カリスマ先生の英知を徹底的にマニュアル化しておくことが必要だ。
 
 学校のブランド化(特色化や個性化)を進めて行くためには、人事異動の壁を乗り越え、「カリスマ校長やスター教員に頼る改革」からの脱却が必要である。