ある会合で、中学生の保護者(ご夫婦)から高校の選び方について相談を受けた。二人とも以前からの知り合いである。
 「本人と親とで意見が違うんです」
 要するに、学校を選ぶ基準が違うのだという。

 それはそうだろう。
 40年以上生き、数え切れないほど失敗し、そのたびに後悔したり反省したりしてきた大人と、まだ生まれて14、15年、近ごろの言葉で言えば「人生一週目」の子供が、同じ考え、同じ価値観を持っているはずがない。
 むしろ、常に親子の意見が100%一致している方が不思議である。
 だから、「意見が違って良かったじゃないですか」と言いたくなる。
 とはいえ、こちらは一応、教育ジャーナリストを名乗り、学校選びについて話したり書いたりしている身である。そこでもう少しまともな答えを考えた。

◆「何が欲しいか」より「何なら我慢できるか」
 私がよく勧めるのは、子供にこう尋ねてみることだ。
 「高校を選ぶとき、ぎりぎり我慢していいのは何だ」

 学校を選ぶ理由はいくらでもある。
 部活動が強い。
 大学進学実績がいい。
 制服が気に入った。
 友達も受験する。
 家から近い。
 校舎がきれいだ。
 偏差値がちょうどいい。
 先生や生徒の雰囲気が良かった。

 だが、それらをすべて満たす学校が目の前に現れることは、まずない。
 
 そこで、足し算ではなく引き算をしてみる。
 「駅から少し遠いけれど、そこは我慢できる」
 「制服は好みではないが、それほど重要ではない」
 「友達とは別の学校になるけれど、それは仕方ない」

 そうやって、「絶対に必要な条件」と「なくても我慢できる条件」を分けていく。
 一見すると消極的な選び方に見える。
 しかし、これは必ずしも悪い方法ではない。
 五択問題で正解が分からないとき、「これは絶対違う」「これもたぶん違う」と選択肢を消していけば、最後に残った選択肢から正解を選べる可能性は高くなる。
 学校選びも似たところがある。
 最初から理想の一校を当てにいく必要はない。まず「ここではない」と減らしていく。そうすることで、自分にとって本当に大切な条件が見えてくる。

◆親にも「我慢できるもの」はある
 この方法の良いところは、子供だけでなく親にも使えることである。
 親には親の「ここだけは譲れない」がある。

 大学進学実績。
 通学時間。
 学費。
 校風。
 学校の知名度。

 だが、親が絶対に重要だと思っていることが、子供にとっては案外どうでもいい場合がある。
 逆もある。
 子供にはどうしても譲れないことが、親から見れば「そんなことで学校を決めるのか」と思えることもある。
 そこで双方が、自分の条件を並べ、「これは絶対必要」「これはできれば欲しい」「これはなくても我慢できる」と分けてみる。
 すると不思議なもので、最初は大きく離れていた親子の距離が少しずつ縮まってくる。
 14、15年も一緒に暮らしてきたのである。
 考え方がすべて同じではなくても、価値観のどこかには共通部分がある。
 そこまでたどり着けば、親が決めた学校でも、子供が勝手に決めた学校でもなく、「家族で納得して選んだ学校」に近づいていく。

◆学校選びは「最大化」ではなく「最適化」
 マーケティングの言葉を借りれば、学校選びは条件の最大化ではなく、最適化の問題である。
 すべての条件を最大にしようとすれば、候補はなくなる。
 近くて、進学実績が良くて、部活も強くて、施設も新しくて、先生も親切で、学費も安くて、制服も格好良くて、友達も行く。
 そんな学校を探していたら、いつまでたっても決まらない。

 大切なのは、本人にとって価値の高いものを確保しながら、価値の低い部分では妥協することである。
 言い換えれば、「何が一番いい学校か」ではなく、「自分にとって何が一番合う学校か」を考えるということだ。

◆実はこれは「選ばれる側」の話でもある
 そして、この話はそのまま学校広報の話につながる。

 私は普段、選ぶ側よりも、むしろ選ばれる側である学校に向かって話すことの方が多い。
 学校には必ず弱点がある。
 駅から遠い。
 校舎が古い。
 グラウンドが狭い。
 知名度が低い。
 大学進学実績では上位校に及ばない。

 しかし、それだけで選ばれないと決まったわけではない。
 受験生や保護者にとって、それが「我慢できる弱点」であればいいのである。

 駅から20分歩く。
 しかし、それでも行きたい理由がある。
 校舎は古い。
 しかし、それ以上に魅力的な先生や教育内容がある。
 大学合格実績は派手ではない。
 しかし、一人ひとりを丁寧に伸ばしてくれる。

 そうした「これがあるから、この学校を選ぶ」という強い理由があれば、いくつかの弱点は受け入れられる。
 これはマーケティングでいう価値提案、バリュープロポジションの問題である。
 すべてにおいて競合校より優れている必要はない。
 むしろ、そんな学校は存在しない。
 必要なのは、「ここだけは他校と違う」「この価値なら譲れない」と思ってもらえるものを明確にすることである。

◆「選ばれない理由」を並べる前に
 募集がうまくいかない学校から、こんな話を聞くことがある。
 「駅から遠いから」
 「施設が古いから」
 「地域の中学生が減っているから」
 「近くに人気校があるから」

 確かに、それらはすべて事実かもしれない。
 しかし、それだけでは分析として半分である。
 問うべきは、「それらの弱点を我慢してでも選びたいと思わせる理由を、こちらは提示しているか」である。
 それを示さないまま、「駅が遠いから仕方ない」「校舎が古いから仕方ない」と言っているのだとすれば、順序が逆だろう。
 選ばれない理由を探す前に、選ばれる理由をつくり、伝える。
 学校広報の仕事とは、結局そこに尽きる。

◆最後は「これがあるから」で選ぶ
 高校選びには、もちろん積極的な理由が必要である。
 「この教育が受けたい」
 「この部活動で頑張りたい」
 「この学校の雰囲気が好きだ」
 最後には、「これがあるから、この学校に行く」と言えるのが理想だ。
 面接で答えなければならないのも結局はそこだ。

 だが、そこに至るまでの道筋として、最初から「最高の学校」を探す必要はない。
 「これは違う」
 「これは我慢できる」
 「これはどうしても譲れない」

 そうやって一つずつ選択肢を整理していけばいい。
 学校選びとは、理想をすべてかなえてくれる場所を探すことではない。
 自分にとって何が大切で、何なら譲ることができるのかを知る作業でもある。
 そしてそれは、14、15歳の子供にとって、自分自身の価値観を初めて本格的に言葉化する経験になる。
 そのような、人生における大事な大事な瞬間を、親子喧嘩の場にするのはもったいないな。