入試過去問題集などでお馴染みの「声の教育社」さんによると、『埼玉県高校受験案内』の売れ行きが大変好調なのだそうだ。
 

 私は昔、出版社勤務の経験もあるし、自社でも受験ガイド本を20年くらい出していたので、だいたいの事情は分かるが、この手の本は毎年決まった売れ方しかしないものだ。売れる時期も、売れる部数もワンパターン。
 だから、初版(しょはん=最初に印刷し発行するもの)を売り切ったら、それで終了になるのが一般的で、めったなことでは重版(じゅうはん=追加で印刷し発行するもの)はしない。
 しかし、今年に限っては、よほど売れ行き好調とみえ書店からの追加注文が多く、重版を検討しているという。

 そのうち、書店に「重版出来!」というポップ広告が並ぶかもしれない。
 ちなみに、「重版出来」は出版界の業界用語で、「じゅうはんしゅったい」と読む。文字通り「出来た」という意味だから、素人さんは「じゅうはんでき」でもいいと思う。

◆情報が少ないことへの不安によるものか
 いつもは決まった時期に、決まった売れ方しかしない本が、例年と異なる売れ方をしている背景には、受験生の情報不足への漠然とした不安がありそうだ。

 夏休み前の入試イベントはことごとく中止となった。県の入試情報発信も遅れに遅れた。
 こうした中、とりあえず何か情報を手に入れ安心したいという受験生心理が、本の購入へと向かわせたのだろう。

 ネットやSNSがあるじゃないかと言うが、この一冊で全体が分かる、つまり「一覧性が高い」という利点を持った書籍が目の前にあると、それだけで安心は得られるのだ。本も捨てたものではない。

◆情報に「思いやり」「まごころ」を込めているか
 今年の入試は安心がキーワードであると、もう100回以上言った。実際にはそんなに言っていないが、そんな気分だ。

 informationに情報という造語を当てたのは森鴎外だという説があるが、専門家ではないので詳しいことはよく分からない。
 自己流に解釈すれば、「情」の字が入っているのだから、ただ「報せる」のではなく、そこに「思いやり」だとか「まごごろ」が入っていなきゃいけないと思うが、どうか。

◆説明会予約が取れないことへの不安と苛立ち
 9月27日(日)、中学生向け入試情報紙の発行し、さいたまスーパーアリーナにおける「彩の国進学フェア」を開催している「よみうり進学メディア」が、今年はオンラインでフェアを開催する。
 オンライン彩の国進学フェア特設ページへ

 同フェアの開催に先立ち、編集部が受験生・保護者からの意見や要望を募ったところ、次のような反応が得られた。
 ほんの一部だが紹介する。

 「コロナの影響で文化祭などで学校の雰囲気を知ることが出来ないことや説明会や相談会がリモートのところが多いため、肌で雰囲気などを感じられないことが不安です」
 「直接見学できる機会も少ないので、非常に選択に不安です。オンライン化もいいのですが、本来の姿、生徒さんのようすや学校の雰囲気が実感できません」
 「コロナでこまめに足を運べないことが不利になるのではないかと不安です」
 「説明会の予約が取りづらく、参加出来るか不安です」
 「入学説明会の予約取れず志望校を決めるにも困っています」
 「学校説明会はすでに締め切ってしまい文化祭もなく見学出来そうにありません」

 切りがないのでこのくらいにしておこう。
 オンライン説明会や動画配信には一定の評価を与えながらも、実際に学校に行けないことへの不安を訴える受験生・保護者は多い。

 9月も終わって10月ももう一杯で次は12月とか言われたら、その間、受験生はどんな気持ちで過ごせばいいのだろう。チャンスがまだ残されている学校はいいが、今年度の予定はすべて終了しましたなどと言われたら、奈落の底に突き落とされた気分だ。

 以上は、9月10日付記事でも述べたとおりである。
 「それ、受験生・保護者の気持ちに寄り添った表現になってる?」

 たった1回でも説明会を開催するのがどれだけ大変かは分かる。が、その上で、受験生・保護者の不安をやわらげる工夫をしてもらいたいと、再度お願いしておこう。

 余談だが。
 今日は東北自動車道浦和インターから蓮田SAまで大渋滞。4連休でお出かけの人が多いということか。
 

読売中高生新聞