森塾などを運営する株式会社スプリックス株式会社湘南ゼミナールを子会社化。
 塾業界の皆さんや私立学校の先生方には広く知れ渡っている出来事なので、今さら取り上げるまでもないだろう。
 
 株式会社スプリックスのサイトにIR情報があり、そこに「株式会社湘南ゼミナールの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」という資料がある。子会社化の経緯等をより詳しく知りたい方は、ここを見ておくといい。

 以下、塾業界に疎いと思われる公立の先生向け解説だ。
 塾の先生はこの先には目新しい情報はないので、ここまで。

◆神奈川では大手、湘南ゼミナール
 湘南ゼミナールは、その名が示す通り、神奈川県発祥の塾である。
 2012年、同じく神奈川大手の臨海セミナーの後を追うように埼玉県に進出してきた。
 埼玉県内の教室はさいたま市に集中しているので、それ以外の地域の方は町で看板を目にすることはないだろうが、神奈川ではどこの駅でも見かける有名塾だ。
 最近流行りの個別指導ではなく、集団指導塾だ。

 話の公正を期すために私とこの塾との関係をお知らせしておくが、この塾とはテレビ番組やYouTube動画を一緒に作ったりしている間柄だ。
 直ではないが間接的には取引先。
 

◆スプリックスは東証一部企業
 個別指導の森塾を首都圏及び茨城・新潟などに展開するほか、教材出版、プログラミング教室、ダンススクールなども手がけている。
 森塾と湘南ゼミナールは、以前から提携関係にはあった。
 森塾はフランチャイズ展開しており、湘南ゼミナールは加盟店としていくつかの森塾を運営するという形だ。
 そうした前史があったことも、今回の子会社化がスムーズに進んだ理由かもしれない。
 ただ、私は森塾及スプリックス社と何の接点もないので、詳しいことは分からない。

◆湘南ゼミナールはヤバイのか
 今風の言い方をすれば、湘ゼミがヤバイということになるのだろうが、そう単純なものではないだろう。
 湘ゼミの塾生が激減中で売り上げも旧降下中、さらに莫大な負債、みたいな状況であれば、数十億をかけて買収(子会社化)する意味はない。

 ブランドに信用があり、優秀なスタッフを抱えており、独自のノウハウを持っており、土地建物などの資産を有していれば、たとえ当面は赤字であっても買収(子会社化)の意味はある。

 仮に私が個人で塾を経営していて、家賃と人件費を払いながら、数十人の塾生を抱え、そこそこ黒字を出していたとしても、誰も手を出してこないだろう。
 投資に見合う利益が将来的に期待できないからだ。

 価値があるからこそ買収(子会社化)のターゲットになり得る。
 単純に「湘ゼミがヤバイ」ということにならないというのは、そういう意味だ。
  
 将来のことは分からないが、当面「湘南ゼミナール」はスプリックスの一ブランドとして存続することになるだろう。
 スプリックスとしては個人指導中心のラインナップに、集団指導塾が加わることで基盤強化が期待できる。

◆水平型の合併と垂直型の合併
 塾業界における合併は買収は、今のところ、水平型が主だ。
 水平型というのは、コンビニがコンビニを買収するというような形。これによりシェアの拡大が図れる。
 垂直型は、たとえば製造業の会社が流通や販売の会社を買収するような形。今まで外注していたものが内製化できるのでコスト削減が期待できる。

 塾業界における合併・買収は、当面、水平型に止まるだろう。
 関東の塾と関西の塾、個別と集団、小中高中心と高大中心。それらも含めて水平。

 垂直のイメージは、塾経営に関わるさまざまな出費をすべて自社グループ内で完結させてしまおういう形。
 他人に家賃や手数料を払うのはもったいないから不動産会社を自ら経営してしまう。
 他人に広告料を払うのはもったいないから広告代理店やメディアを自ら経営してしまう。
 これは結構リスキーだ。

◆個人塾の行く末は
 というわけなので、少子化が加速する現在及び近未来は、シェア拡大や規模のメリットを求めた合併・拡大はまだまだ続くだろう。
 そして、いわゆる二極化が完成する。
 二極化というのは分かりやすく洋服のサイズに例えると、「XS・S・M・L・XL」と5サイズあったものが、XLとXSに集約されてしまうということだ。
 だんだん大きくなるというサクセスストーリーはほぼ無くなって、いきなりXLを目指すか、XSにずっととどまるかの二択になる。

 塾経営の経験がない私の言うことだから、話半分か四分の一程度に聞いてもらえればいいが、今現在XSであるという自覚があるなら、下手にSやMを夢見ないほうがいい。
 XSのままで、超格安路線をとるか超高級化路線をとる。
 一人月額10万円とか20万円というところに需要があるかもしれない。
 英語に自信がある先生なら全教科英語塾もいいね。生徒は英会話スクールに通う手間が省ける。
 ネットを使えば、北海道からでも沖縄からでも生徒が集められる時代だから、そこにチャンスがあるかもしれない。
 とまあ、まだ考えられていない領域がいくらもありそうだ。