受験生や保護者からよくある質問。「来年、出題傾向は変わりますか?」
 お答え1「そういうのは塾の先生方が圧倒的に詳しいので、そちらにお尋ねになってください」
 お答え2「長い目で見れば少しずつは変わっていると思いますが、ある年に突然変わることはありません。急に今までと似ても似つかない問題を出したら、過去問をベースに対策を練っている受験生を裏切ることになります。高校の先生がそんな馬鹿な真似をするはずがありません。これがもし私立だったら、確実に翌年からの受験生を減らすことになります。一見変わったように見えて、実は想定の範囲でしかなかったというのが、これまでの経験です」

 まあ、こんなところか。
 とにかく、「詳しくは塾の先生へ」というのが私の基本的な態度、と言うか私の限界だ。

 と言いつつ、頭の整理という意味もあるから、自分なりの傾向分析をちょとばかりやってみよう。

◆出題傾向とは何なのか
 はじめに「出題傾向とは何か」を定義づけしなければならない。
 定義づけとは大げさだが、言葉の意味するところが、尋ねる側と答える側とで大きくずれていると、スムーズな対話ができない。

 私が出題傾向を考える場合の視点。
 1 構成、問題数及び配点に変化があるか
 2 出題形式に変化があるか
 3 出題内容に変化があるか
 4 以上を含め難易度に変化があるか
 専門家である塾の先生方は、さらに別の視点も加えて詳細に分析されていると思うが、これが私の限界だ。

◆10年前と何がどう変わったか
 具体例があった方が分かりやすいと思うので、埼玉県公立入試を題材とする。
 直近の入試が2020年度入試、その10年前が「平成22年度入試(2010年度)」であるから、この二つを比べて、どれだけ変化があったかを調べてみよう。
 なお、平成22年度埼玉県公立入試は、今と違って前期入試と後期入試に分かれていた。ここで取り上げるのは5教科型の前期入試の方だ。
 時間のかかりそうな作業なので、今回は国語についてのみ、調べてみる。

【国語】
 1 構成、問題数及び配点に変化があるか
 <平成22年度>
 大問1 長文読解(小説)小問数5 配点25点
 大問2 漢字、文法等  小問数9 配点22点
 大問3 長文読解(論説)小問数5 配点25点
 大問4 古典       小問数4 配点12点
 大問5 作文           配点16点
 <2020年度>
 大問1 長文読解(小説)小問数5 配点26点
 大問2 漢字、文法等  小問数10 配点24点
 大問3 長文読解(論説)小問数5 配点26点
 大問4 古典       小問数4 配点12点
 大問5 作文           配点12点

 まず、大問1が長文読解で、大問5が作文でという問題構成だが、ご覧のようにまったく変化がない。よって大問数も同じ。小問数については大問2だけが1問だけ違っている。ただし、2019年度は9問、2018年度は8問というように、ここは年度ごとに多少違うのが普通のようだ。

 配点については、大問5作文の配点が16点から12点と4点減じられ、その4点が大問1と大問3に1点ずつ、大問2に2点が振り分けられた。
 埼玉県関係者ならご存知のとおり、この変化は2020年度入試で起こったものである。
 この変化を大きいと見るか小さいと見るかは判断が分かれるところかと思うが、長年16点で固定化されてきた作文の配点が25%減となったわけだから、これを傾向変化とみなす考え方があるのは当然だろう。
 ただ、問題内容の変化にも通ずるが、作文が表現力を問う出題だとすれば、そのうちの2点が割り振られた先の大問2も、問4などは表現技法を問う出題であるから、内容的には「表現力→表現力」の平行移動でしかないと見ることができる。

 2 出題形式に変化があるか
 ここで出題形式というのは、記号選択での解答を求めるのか、記述・論述その他の方法での解答を求めるのかを指している。
 流れからすると、記号選択が減り、記述・論述が増えていそうだが、どうなんだろう。
 平成22年度
 記号選択 9題
 記述   7題
 文章表現 8題 
2020年度 
 記号選択 10題
 記述   8題
 文章表現 7題

 大問2の漢字や、大問4の歴史的仮名遣いから現代仮名遣いへの書き換えは記述に分類した。作文は当然ながら文章表現だ。
 これもどうやら変化という変化はないようだ。

 なお、これも出題形式に含めて良かろうと思われるのが、文章で答えさせる問題の字数制限だ。
 平成20年度
 大問1 問2 15字以上20字以内
 大問1 問3 30字以上40字以内
 大問1 問5 30字以上40字以内
 大問3 問1 15字以内(2題)
 大問3 問4 35字以上45字以内
 大問5(作文)13行以上15行以内
 2020年度
 大問1 問2 30字以上40字以内
 大問1 問4 45字以上55字以内
 大問3 問3 30字以上45字以内
 大問3 問5 45字以上55字以内
 大問4 問2 15字以内
 大問5(作文)11行以上13行以内

 作文は配点が減ったこともあり、求められる行数が減ったが、長文読解問題においては、45字以上55字以内が2題に増えるなど、全体として求められる字数は増えているようだ。よって、これも傾向変化と見ていいかもしれない。

 3 出題内容に変化があるか
 これは残念ながら国語素人の私にはよく分からない。
 しかし、たとえば大問1で言えば、主人公の心情(気持ち)や行動の変化やその理由を聞く問題が中心なのは、平成22年度も2020年度も変わっておらず、あまり変化がないように見える。
 明らかに変わったのは、以前は知識問題中心だった大問2の中に、読解力や表現力を問うような問題が加わったことだ。

 4 難易度に変化があるか
 これは平均点が一つの目安になるだろう。
 平成22年度が56.2点、2020年度が56.5点。この間、平成23年度の52.7点が最低で、平成25年度の65.6点が最低。ほぼ10点以内の幅で推移しているので、ここ10年間で難易度が特に大きく変化したということはないようだ。

 以上、まとめると。
 難易度に関してはほぼ変化がない。より難しくも、より易しくもなっていない。
 出題形式も大きな変化はないが、より多くの文章を書かせ、表現力を問おうという意図が見られる。
 出題内容もほぼ変化なしだが、読ませる文章量を増やし、読解力・表現力の差が現れるような問題作りをしているようである。
 という変化があるが、過去問をやっておけば、そこから大きくはずれるような問題が出される可能性は極めて低い。

 これ以上の分析は塾の先生にお任せする。