長年取引のあった電話代行サービス会社から廃業の知らせがあった。電話代行というのは、会社にかかってきた電話を代わって受けてくれるサービスのことだ。
 わが社のような零細企業は、いつかかってくるか分からない電話のために人を雇う余裕はないので、実にありがたいサービスだ。

 自分か、他の従業員(パートさん)が社内にいる時は普通に電話を受けるが、不在の時も多いので、その場合は代行サービス会社に転送しておく。
 すると、代行サービス会社の女性は、会社宛てにかかってきた電話に、わが社の名を名乗って(つまり、あたかも社員であるかのように)出てくれる。
 で、とりあえず社長は外出中ということにして、用件や要望を聞いてもらう。そして、その内容を直ちに私の携帯に連絡してもらう。

 今の代行会社とはかれこれ20年近いお付き合いだと思う。その前に頼んだ会社とは多少のトラブルがあったが、今の会社との間ではほとんど記憶にないので、大変よくしていただいたと思っている。

 代行費用は月額2万円。年間だと24万円だから、仮に20年間としても総額480万円だ。人一人を雇う人件費に比べれば、とてつもなく安い。

 さて、長年付き合いのあった会社が廃業するということであれば、次の手を打たねばならない。
 が、いろいろ考えた結果、新たに別の代行会社に依頼することはしないと決めた。
 少なくとも当面はその方向だ。

 なぜなら、そもそも電話というものがめっきりかかって来なくなったからだ。
 最初はコロナの影響かと思っていたが、少し前まで遡って調べてみると、どうもそうではない。
 ここ4,5年で明らかに会社宛て電話が減っているのだ。
 会社の固定電話宛てだけでなく、個人携帯宛も減っている。

 昔は初対面で名刺交換すると翌朝、「電話で失礼します」と言いながら「昨日はお世話になりました」などとかかってきた。
 それがビジネスマナーみたいなところがあった。

 だが今は、早ければその日のうちに、「メールで失礼します」と言いながら「本日は有難うございました」と送ってくる。
 時にはその場でLINE友達になってしまったりもする。

 それに電話だと電車移動中には出られない。
 こっちが忙しいさなかにかかってきてしまうし、相手が忙しいときにかけてしまうこともある。
 その点、時間を共有する必要のないメールは、互いの迷惑を最小限に食い止めることができる。
 
 なるほど、電話の発着信が減るわけだ。

 組織の規模や、仕事の内容にもよるが、わが社のような株式会社のふりをした個人企業に、もはや固定電話は不要だ。
 この際、固定電話の契約も解除しようと思ったが、一気のそこまでやる決心がつかないので、当面は会社宛てを自分の携帯に転送する方法で乗り切ろうと思う。
 固定電話がなくても怪しまれないようになるまでには、もう少し時間がかかる。

 といった次第であるから、今までは、会社宛てにかけると、感じのいい女性の美声で対応していたわが社だが、今後はひどく感じの悪い、上から目線の、しゃがれ声で対応することになる。