かれこれ20年前のことだ。ある学校の生徒募集を手伝った。むろん、ボランティアではなくビジネスとして。

◆説明会での印象操作
 その学校は駅から遠いというハンディを背負っていた。駅からバスで10~15分、バスを降りるとそこからまた徒歩5分。なかなか面倒だが、実際に入学し慣れてしまえばどうということはない。だが、初めての人は遠いという印象を持つ。

 さて、説明会実施にあたって学校側が心配したのは、せっかく説明会に来てくれても、「なんか遠くて大変そうだね」という印象を持たれないかということだった。
 といって、この立地、このアクセスは変えようがないし。

 そこで私が提案したのは印象操作だ。
 最近は「マスコミによる印象操作」といった形で、あまり良い意味で使われないが、要するに「遠いなぁ」という印象を緩和させることだ。

 具体的に提示したのは以下の内容だ。
1 駅でのお出迎え 
 駅改札でプラカードを持ち、バス乗り場へ誘導。
2 バス乗り場でのご案内
 同じくプラカードを持ち、降りる停留所名と所要時間等をご案内。
3 降車バス停でのご案内
 ここではプラカード不要。降りた方に学校への通学路をご案内。
4 通学路でのご案内
 ここが結構ポイントで、50mおきに人(在校生)を立たせ、「おはようございます」「こんにちは」「ありがとうございます」と声掛けをする。
 ちょっと歩くと「こんにちは」、またちょっと歩くと「こんにちは」とやって、遠さを感じさせない。あっという間に着いちゃったという気分になってもらう。
 事後アンケートで「思ったより近かった」という声もあがっていたところを見ると、結構効果はあったのではないか。
5 校門でのお出迎え
 これはどこの学校でもやっているが、できれば大勢で元気よく。部活で来ている生徒がいたら協力してもらう。できれば校長、教頭に立ってもらう(そうとは分からないように)。で、説明の段になって、「あれ、もしかしてさっき校門に立ってたオッサンじゃん」と思ってもらうサプライズ。

◆ストレスなしで着席してもらう
 スマホで情報見られる現代とは言え、見知らぬ駅に降り立って、西口なのか東口なのか迷い、バス乗り場を見つけられず、何番に乗ったらいいかを迷い、と、やっていたらイライラするでしょう。このイライラが不満を増大させる。
 いざ会場での説明となった時、ストレスから解放された状態でいてほしい。できれば期待感を持ってほしい。そうじゃないと、どんな名プレゼンだって効果半減となってしまう。

 だから、遠さを忘れさせるためだけじゃなく、不安や不満を取り除き、いい気分で説明を聞いてもらうためにも、お出迎えは重要なのだ。
 人が足りなかったら生徒の手を借りる。彼らは協力的だし、本気出してくれる。ボーっと突っ立ってる先生よりはるかに戦力になる。

◆最後の印象は最初より大事
 間をすっ飛ばして(説明会自体の進行の仕方を省略して)、クロージングの話に移る。

 これはサラリーマン時代に知ったことだが、どんなに素晴らしいプレゼンをしても、クロージングをしくじると受注や契約に結び付かない。会社からはクロージングの重要性を叩き込まれた。

 説明会では、説明が終わると何となくそれで任務完了といった気分になるが、実はもうひと仕事ある。それがここで言うクロージングだ。お出迎えに対して、お見送りと考えてもらえればいい。ここが案外疎かになる。

 件の学校へのアドバイスは以下のとおりだ。
1 お見送りは校門だけでいい
 行きで(往路で)経験しているから、お見送りは校門だけでいい。行きと同じことをやるとくどい、しつこい。
2 「さよなら」ではなく「またね」と言う
 お見送りでは「さようなら」ではなく、「またね(また来てね)」と言おう。
 今日が最後ってことは出願しない、受験しないってことだから、「またね」、「また来てね」、「また会いましょう」じゃなければいけない。
 「今日は楽しかったですか。満足できましたか。よろしかったらまた来てくださいね」の気持ちを込めて「またね」。

 ちなみに、この学校には2回目以降の説明会を、「初めての方用」と「2回目以降の方用」の二本立てにしてもらい、何回来ても新しい発見や体験をしてもらえるようにお願いした。

◆お見送り>お出迎え
 先週土曜日、某県内私立中学校の説明会を見学に行ったのだが、帰り際は、校長先生に校門までお見送りされてしまった。こっちが勝手に押しかけているわけだし、そこまでしてくれなくてもいい。玄関までで十分なのに。でもまあ、これで悪印象を持つはずがない。

 ちょっと前、これは公立の例なのだが、浦和のはずれにある某高校に取材の約束で行ったら、教頭先生が校門で待ち構え、空けておいた駐車スペースに誘導してくれた。帰りは校長先生が校門でお見送り。
 止めのお見送りで、こちらもいい記事書かなきゃと気持ちが引き締まる。

 そうかと思うと、これは私立の例なのだが、話し終わって校長室を出ようとしたら、「こちらで失礼します」ときた。まあ、言うだけましだが、せめて玄関までだろう。まあ、昔からの知り合いだからというのもあると思うが、用が終わったらさっさと帰れみたいなのはどうかな。他の人に対してもそうだとしたら、だいぶ損をしている。

 こういうことを書くと、読者の中には学校関係者も多いから、今度アイツが来たら注意しようぜとなるかもしれない。が、そういう話じゃない。
 私が言っているのは説明会や相談会における受験生・保護者に対する振る舞いだ。
 画竜点睛を欠くと言うではないか。
 せっかくいい説明、いい相談したんだから、それを決定的なものにするためフィニッシュしっかりやってくださいね、ということだ。