残念ながらこれは愚策と言わねばなるまい。
 まず、こちらのニュースをご覧いただこう。

 教育学部の教授に小中高教員経験者、起用を義務化…文科省方針(読売新聞オンライン 3月25日)

 大学設置基準を改正し、教育学部などの教授らのうち、小中高校の教員経験者を「2割以上」にするよう国公私立大学に義務付ける。
 2026年度以降に学部新設や組織改編を行う大学が対象となる。
 教員経験者が仕事の魅力を伝え、仕事の具体像をイメージしてもらう。
 教員のなり手不足解消や若手の離職防止を狙うとされている。

 教員経験者を教授や講師と招く例はすでに見られるが、この施策により教員のセカンドキャリアの選択肢が若干広がるかもしれない。
 期待される効果はその程度だ。

 教授や准教授として起用するのは、元校長や教頭といった管理職が想定されている。
 私が知る限りでは管理職になるような人はみな優秀だ。
 (アホな管理職とは付き合わないようにしているせいもあるが)

 かれらはもう20年近く授業からも担任からも部活顧問からも離れている。
 先生とは呼ばれているが先生ではない。
 若い学生たちが、そういう年寄りの経験談を聞いて、はたして教員の魅力を感じるかどうか。
 私が学生だったら、ジジイやババアの昔話なんぞ聞きたくない。

 ちょっと前に文部科学省が「教師のバトン」というプロジェクトを始め見事にコケたが、それと同じくらいピントはずれの施策だ。
 おそらく文部科学省としても、教員なり手不足解消の決定打になるとは思っていないだろう。
 とりあえずいろいろやっていますというアリバイ作りのような施策ということだ。

◆教え子を一人先生にする
 日本中の小中高の先生が、そのキャリアの中で一人の後継者を作れば先生の数は維持できる。
 計算上はそういうことになる。

 私は15年間の教員経験(高校)があるが、担任した生徒の何人かが先生になっている。
 ただそれは、小中学校の先生の影響かもしれないし、部活顧問の影響かもしれないし、別の先生の影響かもしれない。
 親や親せきということも考えられるし、先輩かもしれない。
 あるいはまた、テレビや映画で見たか、本で読んだか。
 とにかくどんな職業に就くか、その動機はさまざまだから、先生になるきっかけが先生であるかどうかは分からない。

 なので、私が関わった生徒でいま現在先生になっている人が私の影響だとは思っていない。
 「別にアンタとは関係ないよ」
 そういうことだろう。

 が、そうだとしても、5人10人の教え子が小中高などいずれかの学校の先生になっていれば、結果としてバトンは引き継がれたと考えていいのではないか。
 誰が誰のバトンを引き継いだとかではなく、10人ががりで10年かけて10人の先生を新たに生み出せば、先生の数は維持できる。

 
 教員養成の制度・仕組みは重要だが、それだけでは先生の数を維持し増加させることは難しい。
 先生は、キャリア形成の目に見えるお手本だ。
 後継者は自分たちで作るものだ。